第十二話 生か正義か

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「――彼女から離れなさい」  薫が瞬時に死鬼と涼の間に割って入った。それこそ、『鬼の脚』の真骨頂。そして右手で細剣の柄を握ると抜刀と同時に薙ぎ払った。 「ク!」  死鬼は、バックステップし紙一重でその一閃を躱した。 「涼ちゃんは左から逃げて」  薫はそう告げると、足を踏み出した。そして、砂塵を巻き上げ死鬼に肉薄する。 「キヒッ!」  死鬼は不気味に笑うと、迫りくる薫へ手刀を放った。  彼女は体を逸らして難なく避け、カウンターの突きを放つ。紙一重で躱されるが、構わず連続で繊細な刺突を繰り出す。  だが、どれも当たらない。 「く……鬼の眼か……」  薫は忌々し気に呟く。半鬼狼と違い、死鬼は正真正銘の獣鬼なのだ。個体差はあろうと、眼、脚、腕、どれをとっても人間の比ではない。 「クアッ!」  薫の攻撃が緩んだのを機に、死鬼が反撃を始めた。 「うっ!」  凄まじい勢いと速さで繰り出される手刀と貫手。紙一重で避けると、空気が裂け斬撃となって薫の肌を薄く裂く。 「弓岡さん!」  インカムで桐崎への報告を終えた光汰は、涼が遠くへ逃げていったのを確認し、薫の元へと急ぐ。  ――ダンッ!  とうとう、死鬼の掌底が薫の胸を直撃した。彼女は、かろうじて細剣を胸の前に滑り込ませて防御したが、刀身は簡単に折れ薫を吹き飛ばした。勢いよく地面に叩きつけられ、砂塵を巻き上げながらゴロゴロと転がる。
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