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『……桐崎の言う通りだ。お前まで死んでもらうわけにはいかない』
彼らは既に薫のことを諦めているようだった。
(それが正しい判断だってのか)
光汰は仮面の下で、唇を噛みしめる。影仁たちにそう判断させてしまう自分の弱さが悔しかった。
手負いの薫を連れて逃げることは困難。だからといって光汰一人で立ち向かっても、返り討ちに合い、犠牲者が増えるだけ。であれば、最も合理的な策は、光汰一人で逃げること。そうすれば、犠牲は薫一人で、半鬼狼の戦力ダウンは一人分に収まる。
(だからって……)
『光汰くん?』
反応のなかった光汰へ桐崎が呼びかける。
「嫌です」
『待て、光汰』
影仁が割り込む。その声は珍しく上ずっていた。焦りが感じられた。
そんな影仁に申し訳ないと思いながらも、光汰は「キッ」と目の前の強敵を見た。
「影仁さん、すみません。俺は初めてあなたの指示に背きます。だって――『生きる』よりも『正義』を選ぶのが、男ってもんでしょうっ!」
『『っ!』』
影仁と桐崎が息を呑み目を見開いているのが想像できた。今の光汰にはそれで十分だった。
光汰は静かに耳のインカムを外す。
深く息を吸った。
覚悟を決め、腰を落とす。
そして、
「そんじゃあ、雅人さんと弓岡さんの敵討ちだ。行くぞバケモノォォォッ!」
光汰は、叫びと共に恐怖を捨て、微動だにしていない死鬼へと駆け出した。
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