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光汰は悪戦苦闘していた。
「このっ!」
偃月刀でひたすら突く。宙を裂く。
ド素人の光汰の攻撃は、粗く正確さに欠けるものの、オニノトキシンで強化された瞬発力と腕力で技術不足を補っていた。
「ヒヒッ」
しかし、死鬼は紙一重で難なく躱し、果てには宙返りするなどアクロバットなアクションを決めてみせた。その軽快なステップは戦いを楽しんでいるかのようだ。
(こいつ、遊んでやがる……)
光汰は腹を立てるものの冷静さを失わない。
死鬼が一歩前に出てると、光汰も後ろに下がり距離を詰めさせない。影仁から教わった戦い方を忠実に守っているのだ。
しかし、力の差は歴然だった。
「てめぇ……」
死鬼が少しでも本気になったら、その時点で光汰は終わりだ。光汰の背筋を死の恐怖が這い上がる。
だが、勝機のない戦いでも光汰には止まれない理由があった。
「俺の仲間にっ、手は出させねぇ!」
光汰は自分を鼓舞するように叫ぶと、薙刀の刃を水平に構え死鬼の首目掛けて突きを放った。
死鬼は顔を右へ逸らし避け、白刃は宙を穿つ。
「まだだ!」
それが狙いだった。光汰は、刃をそのまま死鬼の首目掛けて薙ぎ払う。
しかし、
「……」
死鬼は何の感慨も感じさせない挙動で薙刀の胴を掴み止めた。まるで止まった蚊を叩くかのように。
そして呟いた。
「――ツマラナイ」
ヒュンッ!
「――っ! ぐっ!」
目にも止まらぬ速さで繰り出されたのは、死鬼の蹴り。光汰は左から突き抜けた衝撃に痛みを感じる間もなく吹き飛ばされた。
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