第十三話 死闘の果て

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「――見事だ光汰」  感嘆の声と共に死鬼の前に立ちふさがったのは、『影仁』。  彼は、二刀を抜き強く握りしめていた。普段は静かで冷たい雰囲気が今は、嚇怒の熱気を纏っている。  死鬼は影仁の雰囲気に、ただ者でないと感じ取ったのか、落ちた腕を拾おうと薫の方へ向いた。  ――バンッ!  響く銃声。死鬼は間一髪で上半身を倒し、狙撃を回避する。  そして、死鬼は狙撃手と、右腕と、影仁を見回すと踵を返した。 「くっ! 待て!」  影仁が叫ぶも死鬼の逃げ足は速く、瞬く間に遠ざかって行った。由夢も狙撃するが、上手く当たらず敵の逃亡を許してしまう。 「……影、仁さん……」  影仁の背後でかすれるような光汰の声が聞こえた。  すぐさま影仁は仮面を外し、膝を折ると光汰の上半身を仰向けに起こした。 「光汰……このバカがっ」 「すみ、ません……結局、なにもできません、でした」  光汰は血の塊を吐きながら儚げに笑みを作る。  影仁は首を横に振った。 「そんなことはない。今回はお前の勝ちだ。よくやったな」  いつもは抑揚のない影仁の声が今は、熱を持っているようだった。  それを感じとった光汰は、満足そうに歯を見せ笑った。 「良かった……初めて影仁さんに、褒められた。そうだ……お願いが、あるんです」  次第に光汰の瞳から光が失われていく。 「待て光汰。今はしゃべるな。すぐに病院へ――」 「いいんです。それよりも――」  光汰は途切れ途切れになりながらも、最後の望みを語った。  影仁は最後までそれを聞き届けると、真剣な表情で深く頷いた。 「ああ、分かった。それは俺が必ず守ってみせる」 「お願い、します」  そして、光汰は静かに息絶えた。最後の表情は穏やかなものだった。 「……………………」  影仁はしばらく光汰の顔を眺めていたが、やがて目を閉じ、 「…………くっ……」  立ち上がった。  そして、薫の容態を見ていた由夢に確認をとると、彼らは引き上げた。
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