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数日後、雅人は光汰を連れ、再び知人の墓に来ていた。
静かで穏やかな風が吹く中、雅人に並び光汰も墓石の前で目を閉じる。
「晶はな、俺が殺したようなもんだ」
「え?」
『月上晶』。その墓石に刻まれていた雅人の知人の名だ。
光汰は目を丸くした。
まさか雅人から語るとは思ってもみなかった。
「一年前、俺が働いてた現場で事故が起こった。建物の解体作業で順序を間違ったらしくてな、急に鉄筋が落下したんだ」
「まさか」
「ああ。運悪く下にいたのが晶だった。だが鉄筋の下敷きにはなったものの、まだ生きてた。もちろん、俺は誰よりも速く駆け寄ったさ。すぐに助け出そうとした。けど、俺の力じゃビクともしなかったんだ。他の作業員も遅れて駆けつけたが、同時に次の鉄筋が落ちた」
その先を聞くまでもなく光汰は心を痛めた。
雅人は自分の右手を見つめ、強く握りしめる。
「あのとき、俺は晶と右腕を失った。あとはお前も似たようなもんだろ。入院していた俺の目の前に影仁が現れた。そして俺は、この右腕を手に入れたんだ」
そう、その右腕の正体は紛れもなく獣鬼のもの。
影仁が雅人の右腕に『半鬼化薬』を注入したのだ。
それには、何倍にも希釈された『オニノトキシン』が含まれており、対象の欠損部分を再生させ鬼化させる。だが、その『オニノトキシン』の量は脳を侵食しない程度に調整されていた。
それにより、人は人でありながらして、鬼の力を手にしたのだ。
――それこそ、半鬼狼誕生の真実。
「そんな顔すんじゃねぇ。俺は獣鬼に感謝してんだ。これで、俺が助けたい奴へ手を伸ばせるんだからな」
そう呟き、背を向ける雅人。
光汰は、その背中が誰よりもカッコいいと思えたのだった。
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