第三話 鬼を狩る組織

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 そこは『ムサシ中北支部』の会議室。  清悟に呼ばれ、悠哉と姫川が席についていた。 「最近、失踪事件が相次いでいるようだ」  清悟がムサシ本部を通して送られてきた警視庁の資料のコピーを二人に渡す。  内容は、二か月の間に都内で二十代から四十代の男性四人が、行方不明になっているというものだ。  現在、その事件解決のために飛鳥第七班が協力を依頼されている。 「失踪事件? それは獣鬼と関係があるのでしょうか」  姫川はあくまで冷静だった。  彼ら『飛鳥』はムサシの『特別自然災害対策グループ』であって刑事ではない。今回の件は獣鬼どころか、警備の業務にすら関係なく見えた。  ただの失踪事件であれば、会社としても飛鳥が動くことを看過しないはずだ。 「それはまだ分からない。ただ、もし彼らが既に殺されていて、遺体が見つかっていないのだとしたら」  清悟はそこで言葉を切った。部下にその先を想像させるために。  聡明な姫川はすぐに、リーダーの言わんとしたことに辿り着く。 「まさか……獣鬼に食べられていると?」  姫川は目を見開き、その可能性を口にする。  しかし、自分でも言ってることが信じらないといった表情だ。  清悟はゆっくりと頷いた。 「可能性はある」 「ちょ、ちょっと待ってください!」  悠哉が慌てて口を挟んだ。 「四人も失踪しているんです。獣鬼が犯人ならとっくに目撃情報があるはずですよね? それに、いくら喰われたって骨は残るでしょう」 「視野を広く保つんだ内村。もし、それが高い知能を持った獣鬼で、自分の拠点でのみ人を食べるのだとしたら? 誰かに殺害現場を目撃されることはない。骨も外へは出ない」  悠哉は理解できないと眉をしかめる。 「そんなわけ――」 「何故、そんなわけがないと断言できる。内村、君は奴らのことをどれだけ知っているんだ」  清悟の強い眼光と口調に悠哉は怯む。 「そ、それは……」 「リーダーの言う通りです。私たち人間は獣鬼のことを全然知らない。だから、可能性は全て潰さなればならないということですね」  姫川はため息をつくと資料を持って立ち上がる。  そして会議室を出ようとドアノブに手をかけた。 「……その通りだ。苦労をかけるな」 「いえ」  その一言をもって、飛鳥の戦いが始まった。
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