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「――ところで、最近失踪事件なんてのが話題になってるね」
桐崎の声の調子が僅かに硬化する。
「急にどうしたんすか? ここで世間話だなんて」
光汰は困惑しその真意を問う。
雅人は眉をひそめるだけだったが、影仁は静かに目を開き呟いた。
「獣鬼か」
「えっ?」
驚く光汰。
桐崎は「ふっ」と頬を緩めた。
「流石は我らのリーダー。その通りだ。獣鬼の仕業である可能性が非常に高い」
「で、でも、奴らが犯人ならすぐに見つかるはずじゃ……」
もちろん、その会話だけで光汰に理解できるわけがない。
桐崎は穏やかに諭すように説明を始める。
「もし、それが例の『言葉を話す獣鬼』だったらどうだい? そいつの知能なら誰にも見つからずに人間を喰らうこともできるはずだ」
「っ!」
「それなら毎晩、巡回したほうがいいか。行方不明者の自宅を教えてくれ」
影仁は真剣な表情で桐崎に向き直った。
しかし、桐崎は静かに首を振る。
「いや、実はもう候補がいるんだ。あとはそいつが尻尾を出すのを待つだけさ。そのときが来たら……」
「俺がやる」
影仁はそう宣言すると、机の横に立てかけてある二刀の剣と仮面を手に取った。
「待て影仁、光汰も連れて行けよ。ちゃんと実戦経験を積ませてやれ」
今回の件には関わろうとしない雅人だったが、なんだかんだいって教育熱心だった。
影仁は振り向くことなく「元よりそのつもりだ」と呟き、会議室のドアノブに手をかける。
「よ、よろしくお願いします!」
光汰は緊張に声を震わせつつも、偃月刀を強く握りしめ覚悟を決めた。
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