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影仁は慎重になりながらも、確実に前へと進んでいった。その間、遭遇したのは謎のバケモノと怯え逃げ惑う敵兵たちだった。
体力と共に精神力をも消耗していく。
(ここはもうダメか……)
施設全体に火が回り限界を感じてきたころ、影仁はようやく司令部へとたどり着いた。そこは既に火の海で床に無数の死体が転がっている。豪勢な軍服を見るに高位の階級に就いた人間だと推察できる。まさしく地獄絵図だ。
生き残りがいないかあたりを見回していると奥に一人佇んでいた。
「――宗次、なのか」
「兄さん」
宗次は振り向いた。さきほどまでの気力はなく、まるで魂が抜けたかのようにふらふらと揺らめいている。急に体格が良くなったように見えたが、影仁は気付かないフリをした。
「一体なにがあった。これはお前がやったのか」
しかし宗次は答えず、虚ろな目でぼーっと一点を見つめ、立ちつくしているだけだ。焦点もあっているようには見えない。
やがて彼は口を開く。
「僕はね……分かってしまったんだよ」
「なにがだ」
「なにをやっても無駄なんだよ。僕らはただの『餌』なんだ。たった一体の『鬼』のためのね」
「……『鬼』、だと?」
影仁は聞きなれないその言葉に困惑した。弟の気がふれてしまったのかと考えた。しかし、炎で脆化した建物の支持物が落下し始め、思考が中断される。
「とにかくここはもうダメだ。一度外に……」
急速に炎の息吹が活性化する中、影仁が最後に見たのは宗次が今にも泣きそうな表情で背を向けるところだった。
そして、影仁の視界を眩い光が包みこむ。
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