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「――どうしたのコウくん? 難しい顔して」
心配そうに光汰の顔を覗き込む藍。
今の藍は、髪型はショートカットで、服装は制服だった。
綺麗に切り揃えられた前髪に留めている花柄のヘアピンがよく似合っている。
光汰と藍は放課後、駅前にあるカフェでスイーツを楽しんでいた。
と言っても、主にスイーツを食べているのは藍だけだったが。
「いや、なんでもない」
光汰は恥ずかし気に藍から目を逸らし、カフェオレを飲む。
藍は「そう?」と首をかしげると濃厚宇治抹茶パフェを口に運んだ。
「でも、なにか悩みとかあったらすぐに言ってね。だって私たち――」
「――恋人なんだから」と後に続くであろう言葉は、藍が恥ずかしさに耐えられなくなり沈黙へ変わった。
彼女の頬は、ほんのりと桜色に染まっており「あはは」と笑って誤魔化していた。
光汰も気恥ずかしくなり、そっぽを向いて頬をかく。
キッカケはどうであれ、入院中に甲斐甲斐しく世話をしていた藍と彼女の命を救った光汰が惹かれ合うのは自然な流れだった。
光汰が退院してすぐに二人は恋仲になる。
そのときの親友の驚いた顔を光汰は今でも忘れられない。
「心配させてごめん。むしろ俺が藍を守るんだから、気にせずどんどん頼ってくれよ」
光汰は自慢げに自分の腕を叩き、二カッと笑う。
藍は「ありがとう」と微笑むと、スプーンを置いた。
「でも、あのときみたいに自分を犠牲にするようなことはやめてほしいな」
藍は伏し目がちに呟く。
苦しそうにも見える表情は、交通事故のことを思い出しているのだろう。
(こりゃ無茶できないな……)
彼女を悲しませたくない光汰は、今の自分の立場に苦笑する。
そして拳を握り、もっと強くなろうと誓うのだった。
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