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「そうだったんですか……僕、リーダーのこと少し誤解していたみたいです。噂なんてあてにならないな……」
「噂?」
悠哉の何気ない一言に姫川は怪訝そうな表情を作る。
「なんでも、獣鬼になった両親を自らの手で葬ったって。その瞬間も淡々としていて、次の日も何食わぬ顔で出社する血も涙もない冷徹な人間なんだって」
「あなたに何が分かるんですか」
顔を伏せた姫川は低い声で呟く。
それはまるで怒りを抑えているかのようだった。
「ひ、姫川さん?」
悠哉は戸惑いを隠せない。
「あなたは何も見ていないのに……他の人もそうです。人という生き物は、他人を悪く言うことにかけては簡単に一流になれる。でも、自分もそんな生き物なのだという事実がたまらなく不愉快です」
姫川は悔しそうに唇を噛み、肩を震わせていた。
「わ、悪くだなんて。俺はただ……」
「……リーダーだって……泣いていたんですっ!」
「え?」
「私は見てしまった。あのとき、皆が現場を離れた後を。あの人は泣いて謝っていた。『親不孝な自分を許してほしい』と」
「っ!」
その事実に悠哉は目を見開く。
「次の日だってそう。でも、それを仲間の前ですると私たちの仕事を否定することになる。だからあの人は我慢していたんです」
考えてみれば当然のことだった。
清悟ほど仲間想いな男が、親を殺すのになにも思わないわけがない。
「す、すみません……俺は本当にバカでした……」
悠哉はようやく気付いた。
辛い思いをしているのは自分だけではないのだと。
「謝罪などいりません。ただ、あなたが私の後輩なのだというのなら、リーダーの支えになってあげてください」
「はいっ!」
いつの間にか悠哉の心にかかっていた靄は晴れていた。仲間へ抱いていた不信感は、信頼へと変わり、再び前へ進む力を得たのだ。
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