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悠哉と姫川は本社に戻ってすぐに会議室へ呼ばれた。
そこに行くと、ちょうど複数の人間が出ていくところだった。
悠哉は彼らに見覚えなかった。しかし皆、獰猛な眼光を携え、ただの歩行でさえ隙がなく、存在するだけで空気を圧迫していた。どう見てもただ者ではない。
姫川も表情を硬くし、気張っていた。
二人が会議室へ入ると、そこには清悟が一人重苦しい表情で資料を読んでいた。
「……姫川と内村か。とりあえず座ってくれ」
二人の入室に遅れて気付いた清悟は表情を和らげる。
悠哉と姫川は清悟の向かいに座る。
清悟は余っていた資料を二人へ渡し、説明を始めた。今回の仕事について。
「『半鬼狼捕獲作戦』? これ、本当にやるのですか?」
悠哉は今回の作戦を聞くと驚きの声を上げた。信じられないというように瞳が揺れている。
姫川はなにも言わず、ただ資料を睨みつけていた。
「……ああ」
その作戦の目的は『半鬼狼の捕獲』にあった。それだけであれば戸惑う必要はない。問題はその手段にあった。
「『飛鳥で捕獲した獣鬼を街へ放つ』だなんて……これでは一般人を危険にさらします!」
悠哉は拳を握り声を荒げた。姫川も奥歯を噛みしめ端麗な顔を憤怒に染めている。
「分かっている。本部には何度も中止を願い出たがダメだった。これが本部の決定だ。後は俺たちの力量でなんとかするしかない」
清悟は目線を下へ向けながら感情を殺し告げる。
「そんなむちゃくちゃな……」
悠哉は清悟に言っても仕方ないと肩を落とした。
いつの間にか外は夕暮れになっていた。眩い黄昏が会議室を照らす。
するとようやく姫川が口を開いた。
「そもそも本部の目的は何ですか? 一般市民の安全を度外視して半鬼狼を捕まえることに何の意味があるのですか?」
「先日、関西で『第五班』が半鬼狼と交戦したらしい。そのとき、奴らの圧倒的な身体能力に確信したそうだよ。『鬼が混ざっている』と。それで上は、半鬼狼が貴重なサンプルになると考えた。もし、異種の獣鬼を手に入れ研究を進めることができれば、未知の技術を開発できるかもしれない。我々が民間企業だからこそ利益の最大化は優先される。つまり、今この組織を動かしているのは『欲望』だ」
「くっ、あいつらさえいなければ……」
悠哉は憎しみに彩られた表情で怨嗟の呟きを吐く。
清悟は、ゆっくり顔を上げ覚悟を決めた表情で厳かに告げた。
「それでも……最前線で戦う我々だけは忘れてはならない。我々の売り物は武力などではなく、全ての人の安全なのだと。たとえ、組織がそれを忘れたとしても、我々に意志がある限り誰も傷つけさせない」
悠哉と姫川は、清悟の瞳に宿る炎の熱を感じ取り神妙な面持ちとなった。
「我々は職務をまっとうするのみだ。であれば、今回の作戦に失敗などあり得ない」
そしていつもの如くまっすぐに返事をするのだった。
「「了解」」
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