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光汰が目を開けると、自分の部屋にいた。動悸が激しく、着ているシャツは汗でびっしりと肌に張り付いている。
「またあの夢だ……」
あの事件から一週間、友を失い絶望を味わった光汰。加えて、自分が見殺しにしたようなものだから救いがない。
今は断りもなく学校を欠席し、自室に引きこもっている。和馬の葬式にも行かず、藍や友人たちから光汰の身を案じるメールが届いていたが、反応しなかった。
「くっ」
光汰は夢のことを思い出し、重苦しい表情で俯く。
そして、シャワーを浴びると外へ出た。
時間は午前十時を過ぎたばかり。夏の日差しは強く、引きこもっていた光汰には億劫だった。
しばらく歩き、河川敷まで来た光汰。ようやく、高校生や小学生などが多く出歩いていることに気付き、スマホを見た。
その日は祝日だった。
(まずい)
知り合いにでも見つかったら面倒だと思った光汰は、踵を返し家に戻ろうとする。
すると、振り向いた先には――
「あら? あなたは……」
そこには見覚えのある少女がいた。
栗色の髪にツインテール、小柄で華のように可憐な美少女が。
花柄でフリル袖のTシャツにヒラヒラのミニスカート。小さめのハンドバッグを手に街へ繰り出す勢いだ。
「弓岡由夢」
光汰は呟きながらも、厄介な相手に見つかったと露骨に目を逸らす。
由夢は若干目を吊り上げて不機嫌そうな声を出した。
「こんなところでなにしてるの? それよりも、ずっと連絡つかないから桐崎さんも影仁さんも心配してたわよ」
「えっ?」
光汰は斜め下を見たまま目を見開いた。
(影仁さんが? どうして)
光汰には理解できなかった。あの冷徹な影人が何の役にも立たない自分のことを気にしているなど。
惚けている光汰を気にせず、由夢は腕を組み
「う~ん。友達と遊ぶ予定だったけど、いいわ。折角だから先輩の私が話を聞いてあげる。ついてきて」
光汰は一瞬「先輩?」と首を傾げるが、すぐに半鬼狼でのことだと気付いた。もちろん、光汰はこれ以上話すつもりもなく、一言で断った。
しかし、由夢は額に青筋を浮かべ、ずかずかと光汰へ歩み寄るとその手首を掴んだ。
「いいから来なさい」
光汰はそのまま引きずられるように住宅街の方へ連れて行かれるのだった。
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