319人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ
悠哉は困惑した。それは予想だにしない問いだったからだ。それにその話はまるで獣鬼のことを言っているようでもある。悠哉は冷や汗を流し、激しく暴れる心臓を無視してどうにか口角を上げる。
「も、もうどうしたのさ急に。なんか怖い夢でも見た?」
「まあ、ちょっとね~ あ、もうこんな時間か、今日は用事あるからそろそろ帰るね」
咲は軽く両手を合わせて「ごめん」と言うと席を立つ。とんでもない爆弾を投下しておいて逃げるというのか。
しかし悠哉は、今ここで先ほどの返答をしなければならないと焦燥感を感じていた。
「待って咲」
「ん?」
咲が振り向く。悠哉は立ちあがると、まっすぐに咲の瞳を見つめた。
「さっきの話、答えるよ。僕は咲を守る。君が例え人間じゃなくなっても君を見捨てるなんてできない。だって僕ら……『友達』でしょ?」
咲は目を見開き、息をするのを忘れたかのように悠哉をただ見つめた。しかし一瞬、まるで心が痛むかのように頬を歪め俯く。しかしすぐに顔を上げ、再び悠哉を見たときにはいつもの穏やかな表情に戻っていた。
「ダメだよ悠哉くん。君が守るのはバケモノじゃなくて一般市民でしょ?」
咲はカラカラと笑いながら店を出て行った。
店に取り残された悠哉は周囲の客の視線に気づくと居心地の悪さを感じ、すぐに出た。咲は既に遠くの横断歩道を渡っており、追いつくのは厳しそうだった。
(やっぱり女心は分からない)
別に嫌われているわけでもなさそうだが、こちらから近づくと距離をとられる。だがそれよりも、『バケモノ』の話に悠哉は胸騒ぎを感じずにはいられなかった。
最初のコメントを投稿しよう!