第七話 崩れゆく日常

4/10
319人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ
 翌日、博奈高校。 「はあぁぁぁ……」  光汰は分かりやすく大きなため息をついていた。机に頬杖をつき、気難しい表情をしている。もちろん、悩みの種は昨日のこと。 (ダメだ……なにも上手くいかない)  影仁を残し逃げたにも関わらず、まんまと飛鳥の罠に嵌って死にかけた。挙句の果てに同級生の女の子と年下の女の子に助けられるという散々な結果だった。男のプライド総崩れである。それに、獣鬼を狩ることに対する妙なモヤモヤも晴れていない  薫とは同じクラスだが、学校ではできるだけ関わらないようにしようと本人から提案された。故に薫とは赤の他人を貫いている。 「なに分っかりやすいため息ついてんだよ光汰。構ってちゃんか?」  明るく笑いながら光汰の机の前にやってきたのは『城山和馬(しろやまかずま)』。クラスのムードメーカーであり、光汰とは中学時代からよくつるんできた。平均的な顔立ちで特別モテるということはなかったが、とにかく明るい。よく喋る。 「うるさいなぁ」  光汰は、迷惑そうに手をひらひらと振り、ぐでぇっと机で腕を伸ばした。和馬は構うことなく続ける。 「お前、最近付き合い悪いだろ? みんな心配してんだって。それにほら、お前の可愛い彼女も心配して見てるぞ」  光汰は「はっ!」と顔を上げると、やや斜め後ろに席がある藍を見る。するとすぐに目が合った。藍は、目尻を下げ心配そうに表情を曇らせていた。  光汰は余計な心配をかけまいと努めて明るい笑みを作り、手を振った。それを見た藍はほっとしたように微笑むと、手を振り返す。 「……お前、爆発しろっ」  和馬の声が急に低くなった。その表情は悔しそうに歪めている。 「は? んだよ急に」 「まあいいや。ところで今日の放課後、皆でカラオケ行くんだけど、光汰もどうだ?」  思いもよらない提案に、光汰は「え?」と目を丸くし、その皆がたむろっている教壇の横を見た。楽しそうに談笑している男子が三人。一人と目が合うと。 「お、カラオケ行こうぜ光汰。久々にお前の美声聞かせてくれよ」  彼はそう言うとケラケラと笑った。その笑いはバカにしたようなものではないことぐらい、光汰にも分かる。半鬼狼と関わるまでは、このメンバーでいつも遊んでいたのだから。  光汰は逡巡すると、 「……そうだな。行くか、カラオケ」  和馬は「待ってました!」と言わんばかりに笑い、光汰の肩を軽く叩いた。 「よっしゃ、そうこなくっちゃ!」
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!