第八話 絶望は千差万別

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第八話 絶望は千差万別

 そこは暗闇の底だった。  光汰は俯き、まるで罪人のように力なく歩き続けていた。 (俺は……俺はっ、なんのために獣鬼を……)  彼らが絶対悪であるから――安っぽい正義感だ。ただの思考停止でしかない。  一般人を守るため――ただの偽善だ。後から付け加えた言い訳にすぎない。 (どう、すれば……)  答えが見つからず暗闇を彷徨い続ける光汰。  そのとき、目の前に人影が現れた。灰色の粒が集合し人の形を作る。 『光汰』  その声は親友のものだった。 「かず、ま?」  光汰は驚愕に声を震わせ、顔を上げる。  その人影はモヤっとした輪郭を作っているだけだったが、和馬の声だった。彼は手を挙げ陽気な声を出す。 『よぉ、光汰』 「和馬。どうしてっ」  光汰は信じられないものを見ているようなひきつった表情で、その手を親友へ伸ばす。  しかし―― 『なんで、助けてくれなかったんだ?』  光汰の手が宙で静止する。 『だって、お前は気付けたはずだろ? あのスーツの男が獣鬼だってことに』  弾劾するような和馬の言葉に、光汰はなにも言い返せず首を横に振りながら後ずさる。 『――俺たちはどうなる?』  その若い男の声は光汰の後ろから響いた。 「っ!」  光汰が驚いて後ろを振り向く。  そこにいたのは、少し背が高めの人影と、小柄で女性の体のラインをかたどった人影だった。 『ねえ、どうなの? 私はなんで殺されたの? あなたに何かした?』  光汰の頭の中に浮かんだのは、数週間前の夜、初めて狩った女の獣鬼だった。 「わ、分からない……」  光汰は弱々しく呟く。 『は? 分からない? そんな理由で俺たちは殺されたのか』  若い男の声は、落胆したようだった。  光汰は顔を悲痛に歪め、しゃがみこむ。そして目をつぶり両手で耳を塞いだ。 「や、やめてくれ……」 『どうして?』 『どうして?』 『どうして?』 「やめろぉぉぉおぉぉぉっ!」
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