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僕らが住んでる世界には、不幸せを感じる者はいませんでした。
なぜならひとりの乙女が、とても美しい声で、平等に愛を歌い続けていたからでした。
どんな姿をしていても、どんな声でも、どんな感情をもっていても、それを言葉にしてもしなくても、乙女の思いは変わらなかったのです。
ですが、そんな乙女を見続けた神は、乙女に試練を与えました。
乙女の声を奪ったのです。
人々は言いました。
「あなたがいてくれたから、私達は生きている」
「泣かないでほしい」
「ボク達を信じて」
「守るから……」
今まで乙女が人々に与えていた以上の時と優しさを乙女は受けたと感じました。
それが乙女を狂わせていきました。
(私はもう、みんなの負担なんだわ)
(なにも返せない……)
(愛される資格なんてない)
(助けて)
泣き続ける乙女を神は哀れに思い、澄んだ青い色の小鳥にしました。
翼を広げ、乙女は思います。
(ああ、私……これで)
(愛されるコトからも、返せないコトからも)
(私、自由なのね)
嬉しくて、哀しくて……。
初めて歌を褒められた時のことを思い出した乙女は、人の言葉ではなかったけれど、また自然に歌うことが出来るようになっていたのです。
人々は乙女に、こんな言葉を贈りました。
「また、あなたに逢えてよかった」
乙女は笑い、人々もまた、とても幸せな気持ちになりました。
end
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