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「あ、痛ててて……」
「大丈夫?何してるの?」
階段の手摺から勢いよく落下した僕を見るや
九条さんは慌てて螺旋階段を駆け下りてきた。
「怪我はないね?ていうかこんな時間にどこ行くの?」
僕を抱き起し
矢継ぎ早に尋ねる九条さんはまだ着替えてもいない。
「僕はただ……眠れないからやっぱり庭を散歩することにしたの。あなたこそこんな時間までそんな恰好でどうしたの?」
疑われないよう僕は軽い調子で答える。
だけど微笑みの王子が――今夜はどうしたことか。
その顔にはひとかけらの笑顔もない。
「こういう事が起こるかもしれないと思って待っていたんだよ」
「待っていた?」
「ああ。こんなことなら手摺の下で待つべきだったかな?」
「ご冗談。それならもう手遅れだから寝てください」
僕は一刻も早く外に出ようと
何気ない風を装って彼に背を向ける。
だけど――。
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