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これ以上優しくされたら
僕は愚かしい自分をもっと呪うだろう。
「ホットミルクは?」
「いらない」
「ならクッキーは?」
「九条さんたら。僕は赤ちゃん?」
今ならまだ元のどうしようもない道化に戻れる。
それは楽で――かつ僕に一番ふさわしい生き方だ。
絡めた指先がほどける。
僕は足早にその場を立ち去ろうとした。
「和樹」
呼び止めないで――。
「なに?」
振り向きはしなかった。
どんな小さな表情の変化も見透かされそうで怖い。
「君はいい子だよ。どんな君でも――僕にとっては完璧に愛おしいんだ」
「おやすみなさい――九条さん。明日にはいつもの僕です」
僕はひとつあくびの真似事をして伸びをした。
真っ直ぐ前に進まなきゃ。
後ろから見た僕の肩、震えてなきゃいいけれど――。
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