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開き直る?
嘘を吐きとおす?
それともいつもみたいに誘い込んでしまおうか?
僕の中に根付いた悪魔を征司は射貫くように見つめている。
「薫お兄様……僕のことを恨んでないって言ってた」
まずは現実逃避。
僕は目を閉じて美しいものだけに思いを馳せる。
温室に咲き誇る花々。
手のこんだヨーロピアンレースのクロス。
おろしたての真っ白なガウンや
果樹園にたわたに実ったブドウ。
薫が奏でるバイオリンの美しい音色。
綺麗な鳶色の髪と同じ色した憂鬱な瞳。
どこまでも白い肌。
それから?
それから――白い肌を滴る鮮血。
『俺の血で……汚れちまった……ごめんな』
驚くほど優しい声音がよみがえった瞬間――。
僕は窒息しそうな息苦しさを覚え胸を掻き毟った。
ようやく
悪夢から覚めた僕は――。
「僕はなんてこと……なんてことしてしまったんだろう……」
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