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適当に身体を拭くと
僕は濡れた頭のままローブを羽織り部屋を出た。
もうみんなそろって眠りに落ちてしまったみたいに
長い廊下は耳が痛いほどの静寂に包まれていた。
僕は足音を忍ばせ進む。
薫の部屋まで――。
あとは泥棒猫のように用心しながら
音を立てず忍び込んだ。
目が慣れるのを待って小さなスタンドをひとつだけ灯す。
それから手あたり次第――。
薬が入っていそうな引き出しを
ひとつひとつ開いては閉じた。
「ないな……」
部屋は住む人間を表すと言うが
えてして余計な物の少ない部屋だった。
キャビネットの引き出しもデスクの引き出しも
楽譜や文房具など必要最小限のものだけしか見当たらない。
「無駄足か……」
探し物にも疲れ僕は部屋の中央にぽつんと置かれた
革張りのアームチェアに身を投げる。
「……ん?」
と――視線の先。
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