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無論探し物はここにはない。
いるのは空気と化した用済みの道化だけだ。
ルカはガラス窓に重なるほど近づいて
なんとか鍵のかかった窓を開けようと必死に窓枠を揺すり始める。
「ひっ……!」
豪奢な作りとはいえ古い屋敷だ。
力が加わると今にも鍵が飛び跳ねて外れそうなほどに揺れる。
そうしておいてルカは再び
目を皿のようにして部屋の中をのぞき込んだ。
「カオル……カオル……」
面と向かっているというのに
目の前の人間を映そうともしない狂信的な瞳。
突如夜のバルコニーに現れた吸血鬼は
あたかも幻想絵画のようだ。
「やめて……もうやめて……!」
とびきり不気味な幻想絵画――。
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