73人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
征司お兄様――新しい指輪を買ったんだ。
「おい、なんで黙ってる?」
一際長い中指に輝くのは
ブシュロンのキャトルブラックリング。
さっきから机を叩くのは
そいつを見せびらかしたいだけかもしれない。
「怒られたらそこら辺の野良猫だってもうちょっとマシな反応はするぞ!」
言ってほら、また机の角を叩く。
でもそんなの嘘だね。
そもそも猫は誰かに怒られるという概念さえない単独動物なんだ。
大声出して怒鳴られたって不快に感じて逃げ出すだけさ。
その点僕はまだ偉い。
「僕らの質問の仕方が悪いか?そもそも君――この状況が分かってるのかい?」
怒られたって問い詰められたって
いくらイヤでも僕は逃げ出さないものな。
そして訪れる
幾度目かの沈黙の中。
中川が音もなくやってきて
僕らのテーブルの傍らにそっと。
本当にそっと
レモン水の入ったグラスを3つ置いて下がって行った。
最初のコメントを投稿しよう!