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Ⅰ・バレンタインは甘い悪夢
僕は高校の玄関に入ると祈りながら自分の下駄箱を開けた。何も無いことを確認してホッと一息つく。
「今年もこの日が来てしまったか……」
誰かに聞こえるかどうか程度の小さな声で呟くと、僕、横坂飛樹(よこさか とき)は教室に向かって歩き出した。今日は毎年恒例の聖バレンタインなのだが、僕にとってはXデイ。何故高校二年生という青春真っ盛りな僕がバレンタインを恐れているか…その理由は中学校まで遡る。
☆ ☆ ☆
「横坂くん、これ受け取ってくれる?チョコレート、作ってみたの」
学年でもそれなりに人気のある女の子からの、チョコレート。それは多分、本命だったのだろう。僕は自分で考えているよりずっとモテるようだった。
「あ、ありがとう。開けてもいいかな?」
「う、うん。口に合うかはわからないけど……」
女の子がバレンタインの為に心を込めて作るチョコレート。それが不味いはずがない。僕はそう信じていた。可愛らしいハートの形のチョコレートをつまみ、口に入れる。
「うん。美味しいよ」
「ホント?よかったぁ……」
お世辞抜きで、それは本当においしかった。ミルクのまろやかさと砂糖の甘さがマッチする……。
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