第六話:二

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「夜ごと来るもんですから、さすがに俺も稽古しましたよ。けど、笛って、難しいもんなんですね。全然吹けない。音すら、出せるか出せないかですよ。穴の押さえ方とか、楽譜も、ネットで調べてもちんぷんかんぷんで……。 昼は仕事がありますし、けど、夜は月詠が来るから寝不足です。俺は吹けない諦めてくれ! って、何度も言いましたよ? でも、その度に怒られて脅されました。そんなに聴きたいのかなぁ……。もう、どうしたらいいんですかね」  彼の様子からして、かなり追い詰められているようである。 大達が事故の見分していたあの日も鴨川で稽古し、明け方、ようやく彼女が帰り、自分も帰路についたところで大達とその腕章の文字を見つけ て、今に至るのだった。 主立って聞いていた玉木は思わず腕を組み、 「月詠は、聡志さんに吹いてほしい他に、笛を手放すなとも言っているようですが。売却の話とかがあるんですか?」 「いえ、全く……。そんな人も来ませんし。月詠がそう言うもんだから、ひょっとしたら高級な物なのかと思って魔が差しそうになるんですが、そうなると後が怖いので、そのままです」 「なるほど……とにかく、色々気になりますね」  という言葉は一語一句違わず大達全員の代弁だった。 やがて塔太郎の、 「本人から話を聞くんが、多分、一番ええにゃろな」  という言葉を聞いて、琴子は早速、薙刀の手入れを始めている。 「琴子お前、明日の仕込みはやらへんのかい!」  と、竹男がカウンターから身を乗り出していた。
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