第六話:一

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その笛の音は、人々で賑わう北野天満宮の天神市、その全域を突き抜けるかのように響き渡った。 演奏ではなく、間違って出たような高音ただ一つである。 この日の北野天満宮は、京都随一の骨董市として知られる「天神さん」となっており、アンティークの着物だけでなく、茶碗や玩具、用途の分からないような古道具まで、一緒くたにして露店でお目見え、というような場所となる。 だからここで突然笛が鳴ったところで、驚きこそすれ、大した事件という訳ではない。 しかし、昼下がりの木の下でまどろんでいた白猫、月詠(つくよ)にとって、その音は一大事だった。 笛の音を耳にした瞬間、自分の目が、反射的にこれでもかと言うほど見開かれていた。 「まさか、今のは……」 かすかに霊力を帯びた、綺麗な音。間違いない。 ――鬼笛だ。
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