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「そうだ!この前のつづき。スマホでメッセージ送ってみて。」
「あっ、うん。」
木藤はスマホを眺めて、しばらく考えていた。
そして、俺のスマホにメッセージが送られてきた。
あおい【こんばんは】
俺もすぐに返事を送った。
流星【こんばんは】
「つぎは?」
「えっと、まだつづけるの?」
「そう、続けて」
今度は俺から、メッセージを送った。
流星【誕生日は?】
「誕生日は、6月18日」
メッセージを声に出して読むと、木藤は無意識に言ってしまったのだろう。
「あー、言っちゃだめじゃん。」
「え?どうして?・・・あっ、そうか。」
そう言うと、木藤もメッセージを送ってきた。
あおい【誕生日はいつですか?】
「10月26日」
「永瀬くん?」
木藤は、困った顔をして俺の方を見た。
「なんだよ。最初に言ったのは、木藤だよ。」
俺は可笑しくて、つい笑ってしまった。
「そうだけど・・・」
「誕生日、過ぎちゃったんだ。」
「うん」
「あ、あの・・ね・・・」
「うん?」
「私のスマホ、アドレスになにも入って無かったでしょ」
「俺だって少ないよ。必要な人しか入れてないから」
「そうなの?」
「見る?」
俺のスマホのアドレスを、木藤に見せた。
「父さんと母さん。あと、健人と木藤。とわの病院、学校。そんなもんかな」
スクロールしながら話していると、木藤は俺に顔を近づけてきた。ヤバい、木藤の顔が近い。
「私は、お母さんが『携帯は遊びで持たせているんじゃない』って言われていて、今日だって・・・」
木藤は俺の家に来るまでのことを話しだした。
永瀬くんと別れてから、急いで走って家に帰ったけれど、急な土砂降りで少し濡れてしまった。
「ただいま」
「おかえり、あおい。かさ持っていなかったの?濡れているじゃないの。お風呂入って来なさい。」
「はい」
部屋に入ると、カバンからスマホを出した。
アドレスから永瀬くんを削除しようと思うけれど、迷ってしまい指が動かない。
だめだ、お風呂に入った後にしよう。
机の上にスマホを置いて、お風呂に行った。
お風呂から上がって、部屋に入るとお母さんがいた。
お母さんは、スマホのアドレスを、私に見せて言った。
「あおい、この永瀬という人は誰なの?最近帰りが遅かったのは、この人に会っていたからなの?黙っていないで言いなさい。」
机の上に置いたままにしたのは、私がいけなかった。
でも、どうして?私のスマホを勝手に見るの!
――また繰り返すの?――
小学6年の時に、スマホを買って貰った。
学校に携帯電話を持って行くのは禁止だった。
だから、塾の友達と電話番号を交換した。
塾の友達と言っても、同じ学校に通う人がほとんどなのだけれど。
塾から帰ると、毎日塾の友達と電話で話すようになった。
最初はすぐに終わらせるつもりで話していても、話に夢中になって長電話になって、勉強がおろそかになる日が増えていった。
自分でも良くないと気づいてはいたのだけれど、楽しくてやめられなかった。
とうとうお母さんに、スマホを取り上げられてしまった。
『携帯は遊びで持たせているんじゃないのよ。』
そう言って、お母さんはアドレスを全部消して、電源を切った。
『受験が終るまでは返しません』
次の日学校に行くと、塾の友達に問いつめられた。
『昨日なんで電話に出なかったの?』
『何度も電話したのに』
『お母さんにスマホ取られちゃって・・・』
『返してもらえばいいじゃん』
『でも・・・』
『いつもお母さんって、うざいんだよ。』
『もういいよ。行こう。』
塾の友達は、行ってしまった。
この日から同級生からも無視されるようになった。
学校も塾でも、私は一人ぼっちになってしまった。
後で知ったことだが、塾の友達だった人たちが、私の悪口をネットにながしていたらしい。
私はスマホを取り上げられていたから、知らなかった。
でも、知らなくて良かったのかもしれない。
このことが原因ではないのかもしれないけれど、受験は失敗した。
『あおい、引っ越しするわよ。落ちたから恥ずかしくて、ここにいられないでしょ』
卒業式が終わると、引っ越しをした。
いつも私は、お母さんが怒って言う言葉を、だまって聞いているだけで、その場をやり過ごすことしか出来なかった。
結局何もしないで、終わるまで耐えるだけだった。
――もう繰り返したくない。――
私は、机にあったカッターナイフを手に取り、お母さんに向けた。
「あおい、やめなさい」
「スマホ、返して!お母さんには関係ない!」
お母さんからスマホを奪い取り、カッターナイフを投げ捨てて、家を飛び出した。
家を出たところで、どこにも行く当ては無かった。
ふらふらと街を歩き回っていると、永瀬くんの家の前まで来てしまった。
『もう・・・私に、話しかけて、こないで!』
言ってしまった言葉は取り消せない。
あんなことを言ってしまって、永瀬くんに会って良いわけない。
でも、家にも帰りたくない。
永瀬くんに、電話を掛けようとして、やっぱり諦めてやめる。
それを何度か繰り返していた。
電話をしたところで、永瀬くんになんて言えばいいの?
それでも勇気をだして、永瀬くんに電話をした。
――『・・・もしもし?』
永瀬くんの声を聞いたとたんに、涙があふれて止まらなくなった。
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