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「理紗ちゃんと友達になったのは、スマホ持って無いからなんだ。また嫌な思いしたくないから・・・。」
「俺も。そんなに仲が良いわけじゃないのに、スマホ持っているだけで番号交換しよって言ってくるヤツいるじゃん。断ると嫌み言ってくるから、面倒くさいってことあるよなぁ。」
そういえば、嫌み言ってきたヤツって誰だったっけ・・・。
「永瀬くんも、嫌なことされたことあるの?」
「ある、ある。あとさ、ありがとう。俺のアドレス守ってくれたんだよね。
でも、お母さんと喧嘩しなくても良かったのに。アドレス消されたら、何度でも教えるよ」
「ううん。お母さんに消されるのは嫌だったから、それに番号は覚たから消されても大丈夫」
「そっか」
「うん」
それにしても暑くて、喉乾いてきた。たくさん汗もかいたな。
「家に帰りたくない。帰ったとしても、どうしたら良いかわかんないよ。どこか遠くに行きたい。」
「ちょっと待って、とりあえず、どうしたら良いか一緒に考えよう」
とは言え、母さんも苦戦しているのに、俺に何が出来るというのだろうか?
「俺さ。今日、木藤に言われた言葉で落ち込んだんだ。もう、どうしていいかわかんなかった。でも、木藤は電話して家に来てくれた、それがすごく嬉しかったんだよ。
それくらい、人の気持ちって変わりやすいと思うんだ。」
「うん」
「ちゃんとお母さんと話したら、変わるかもしれないよ」
「そんなの無理、出来ないよ。私、お母さんとちゃんと話したことない・・・。
・・・でも、変われるかな・・・。変わりたいよ・・・。」
そう言うと木藤は泣き出した。
俺は泣いている木藤を、黙って見守ることしか出来なかった。
木藤が落ち着いたのを確かめてから、俺は言った。
「木藤が変わろうと思うなら、変われるよ。絶対に大丈夫だよ。
我慢しないで、グチぐらい俺に言ってよ。聞くことくらいしか出来ないけどさ。
あっ、のど乾かない?待っていて、飲み物持ってくるよ。」
部屋を出ると、何かもっと、ましなことを言えば良かったと、ダメな自分に落ち込む。
クソ―。熱くて、考えがまとまらない。
木藤にとって、家は居心地のいい場所ではないのかもしれないな。
階段を下りながら、どうすれば良いのだろうかと考える。
まだ終わらないのか・・・。
リビングからは、母さんの声が聞こえてきた。
キッチンへ行くと、冷蔵庫から麦茶を出してコップに注いで、お盆に置いた。
ああ、そうだ。タオルも持っていこう。
「木藤、冷たい麦茶・・・?」
部屋に戻って声をかけるが、木藤からは返事が無かった。
正面からのぞいて見ると、目が閉じている。眠っているのか?
俺は、もう一度名前を呼んでみた。
「木藤・・・?」
よく見ると、木藤の頭が上下に揺れていた。
すると、急に木藤の頭が横に揺れて倒れそうになった。
俺はあわてて、お盆を床に置き、木藤の隣に座った。
木藤の頭が俺の肩に乗っかると、ドキリとして心臓の鼓動が早くなって頬が火照る。
落ち着こうと思って、麦茶のコップを取ろうと手を伸ばしたが、床に手が届かない。
俺が動くと木藤が倒れてしまいそうで、身動き出来ずに固まってしまった。
やばい。なんで麦茶のコップを床に置いちゃったんだ。
麦茶が飲めないとわかると、ますます暑くなって汗が吹き手出てくる。
だけど、俺の肩に頭を乗せて寝ている木藤と一緒にいると、このまま時間が止ってしまえばいいのにと思う。
外からは蝉の鳴き声に変わって、鈴虫やコオロギの鳴き声が聞こえていた。
電話を終わらせた母さんが、階段を上がって来た。
「やれやれ。やっと終わりましたよ。」
「・・・かあさん・・・」
「なぁに、情けない声出して」
「しー、大きな声出さないで、木藤が寝ている。」
「一緒の部屋で寝るなんて10年早いわ!」
俺の部屋に入って来た母さんは、俺の頭をベシッと叩いた。
「・・・えぇ?」
「あおいちゃんね、今日は家に泊めることにしたから。」
「まじで!?」
電話の感じだと、すぐにでも連れて帰りそうな勢いだったのに。
「お父さん、ちょっと来てくれますか。」
母さんは廊下に出て、リビングにいる父さんに声をかけた。
「流星、あおいちゃんに触るんじゃないわよ!」
「わかってるよ!」
「あおいちゃんは、そらの部屋で寝ましょうね」
母さんは、そらの部屋へ行って布団を敷いた。
「お父さん、そらの部屋に布団を敷いたので、あおいちゃんを運んでくれますか」
俺の部屋へ入って来た父さんが木藤を抱き上げて、そらの部屋へ連れて行った。
軽くなった肩を触りながら思う。ずっと、俺の肩に木藤の頭が乗っていたんだよな。
そして、床に置いていた麦茶のコップを取って、ゴクゴクと一気に飲んだ。
お風呂に入って、パジャマに着替えた、そらととわが、階段を上がってきた。
木藤がそらととわの部屋に入って行くのを、見たそらがお母さんに聞く。
「お母さん。お姉ちゃん私の部屋で寝るの?」
「そうですよ。」
「ねえ、お母さん。わたしも、お姉ちゃんと一緒に寝たい」とわも言った。
「いいわよ。そら、とわ。あおいちゃんもう寝ているから、静かにしてね。」
「はーい。」
そらととわが、小さな声で答えた。
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