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父さんは階段を下りて、リビングへ戻って行った。
そらととわも、部屋に入って寝るだろう。
母さんを呼び止めて、俺の部屋に手招きした。
「母さん、ちょっと良い?」
俺の部屋に入ってきた母さんは床に座って、麦茶のコップを手に持つと言う。
「暑いわね・・・。この麦茶飲んでもいいかしら?」
俺は、自分の机のいすに座った。
「うん、飲んでないから、いいよ。それより、電話の話どうなったの?」
母さんは、麦茶を一口飲む。
「知りたい?」
「早く言って!!」
「そうね。あおいちゃんのお母さんとは、まともな話は出来なかったのよ。」
「やっぱ、そうなんだ。」
「その後、お父さんが帰ってきて、代わってくれてね。」
――「すみません。電話代わりました。」
「あ、はじめまして・・・。あおいちゃんと同じクラスの永瀬の母です。」
――「あおいの父です。どういうことか、説明してもらえますか」
それで簡単に、説明をした。
――「あおいがお世話になって、すみません」
「いえ、いえ。とんでもない」
――「ご迷惑でなければ、今晩あおいを泊めていただけますか。」
「ええ、うちは構いませんが、今日帰さなくて良いのですか。」
――「今は冷静にさせた方が良さそうですし、妻にはしっかり話しておきますから・・・」
「そうですね・・・明日、家に帰しても良いですね?」
――「はい、よろしくお願いします」
「それで、あおいちゃんは。明日お家に帰すことにしたのよ」
「大丈夫なの?木藤は家に帰りたくないって言っていたよ」
「わかるでしょ、流星。ずっとここにいるわけにはいかないの。未成年だから両親のもとに帰すしかないのよ。」
「そんな!」
未成年と言われると、何も言い返せない。
「虐待されていると分かれば、保護するわよ。でも、あおいちゃんは、虐待されているようには見えない。」
「うん・・・。」
と、いうことは、虐待があれば、俺の家にいてもいいのかな。いやいや、木藤が虐待されていたら困るけれど。
「あおいちゃんのお父さんは、大丈夫だと思う。問題は、おかあさんよね・・・。電話では、言葉の暴力でしか無かったわ・・・。」
「え?言葉の暴力は虐待にならないの?」
「躾、と言われてしまったら、どうかしらね・・・」
そう言えば、木藤のお父さんのことは、話しに出てこなかったから、仲は悪くないのかな。詳しくは、わからないけれど。
「今ここで話していても、結局は、あおいちゃんが自分で解決しないと、何にも変わらないのよ。流星わかるでしょ」
「・・・うん。木藤、変わりたいって言っていた。」
「流星。あおいちゃんのことは、これからも見守っていけばいいわ。」
母さんの言うこともわかるけれど、見守るだけなんて、子供ではダメだと言われたようで、そんなの嫌だ。俺が木藤のことを守ってやれるだけの大人に早くなりたい。
「でも、木藤は俺を頼って来たんだ。なんとかしてあげたい」
「流星、見放してしまうわけではないのよ。」
「母さん。俺、10年経ったら、守れるようになれるかな。」
「なに、流星。10年と言ったのは、言葉の綾よ。
でも、そうね。10年経ったら25歳か・・・。守りたい気持ちがあれば、出来るようになるんじゃないかしら?」
「そっか、出来るかな」
なんだか、見えない力がみなぎって来てワクワクする。
「でもね、一緒にいて傍にいるだけでも、安心させることも出来るのよ」
「そうなの?」
「それより流星、あおいちゃんを守りたいなら、今やるべきことは何か、わかっているわよね?」
やばい、何だ?
「えっと・・・何かあったかな?・・・あっ、高校受験か!?今からじゃ、もう遅くね?」
「今からでもやれるだけやったら、いいんじゃないでしょうかね!」
「わかった、がんばってみるよ」
「さぁ、お風呂に入って汗流していらっしゃい。」
「うん」
風呂から上がって、俺の部屋に入る前に、そらととわの部屋の戸を眺めた。
俺の家の、そらの部屋に木藤がいると思うと、気になって眠れそうになかった。
君はそこに存在しているだけで、すごいことなんだよ。
何もないなんてことは、無いはずた。
君の命は、いつだって輝いている。
君の笑顔は、周りの人たちを笑顔にする。
自分の存在に、もっと自信をもっていいんだよ。
蝉は朝早くから、今日も鳴いていた。
目が覚めたら、すぐに起きて着替えた。
木藤が気になって、そらの部屋の様子を戸の前でうかがう。
静かだな・・・。
そっと戸を開けて部屋の中を覗くと、そらととわが寝ているのが見えた。
木藤がいない。もう帰ってしまったのか、と焦る。
すると、声が下の階から聞こえてきた。
俺は音を立てないように、静かに階段を下りて行った。
キッチンから、母さんと木藤の話し声がする。
良かった、木藤が帰っていないのがわかって、ホッとした。
でも、何を話しているんだろう。キッチンを覗こうとした。
「流星、立ち聞きはいけないぞ!」
え!?
俺は、驚いてキッチンの入り口に立つと、木藤も振り向いて、お互い顔を見合わせた。
「流星、ご飯たべたら、あおいちゃんを家に送るから、そらととわを起こしてきてくれる?」
「あ・うん・・・」
やばい、朝から木藤がの顔が見られるなんて、頬が緩んでしまう。
また二階に上がって、そらの部屋へ行くと、部屋の戸を開けた。
「そら、とわ。起きろ、ご飯だ」
寝ている、そらととわを起こす。
「お兄ちゃん、おはよう。・・・眠い、もう少し寝ている。」
そらは布団の上でゴロゴロしていた。
「ふぁ~~。お兄ちゃん、おはよう」
続いて、とわも目を覚ました。
「朝ごはんだ。さっさと着替えて、降りてきな。」
「あれ?とわ、お姉ちゃんいないよ」
そらは起き上がり、辺りを見回した。
「えっ、もう帰っちゃったの?」
「木藤なら、まだ家にいるよ。」
「それなら、とわ早く着替えなくちゃ」
「うん」
「お兄ちゃん、着替えるから出て行って!」
そらととわは、俺を部屋から廊下に押し出すと、素早くバタンと戸を閉めた。
はぁ?ふざけんなよ。俺は起こしに来たのに・・・。
だいたい、妹の着替えなんて見たくもない。
俺は呆然として廊下に一人立っていたが、キッチンへと戻った。
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