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キッチンに戻ると、木藤と母さんがテーブルに座って待っていた。
俺がいない間に、母さんが木藤に何を言ったか気になる。
「流星は、あおいちゃんの隣に座って。」
「・・・うん」
母さんに言われるまま、木藤の隣の椅子まで来ると、木藤の顔を見ずにに座った。
すぐ隣に、木藤がいると思うと恥ずかしくて、木藤の顔が見られなかった。
「流星も、あおいちゃんの家まで行く?」
「えっ。・・・一緒に行っていいの?」
木藤を家に帰さなければいけないことは、わかっている。
けれど、木藤を家に帰すことは、まだ心配だった。
「ええ、あおいちゃん良いわよね?」
「あ・・・はい」
木藤と話をしたかったけれど、なんとなく母さんには聞かれたくなくて黙っていた。どうにかして、二人きりにはなれないだろうか。
木藤の家に着くまでには、話すことが出来たらいいのだけれど・・・。
しばらくすると、そらととわがパタパタと階段を下りてきた。
「お姉ちゃん、おはよう」
「おはよう」
そらととわはキッチンに入ってくると、木藤に向かって元気に挨拶をした。
「おはよう」
木藤も挨拶をした。
「二人とも手を洗って来なさい。朝ごはん出来てるわよ」
「はーい」
母さんに言われ、そらととわは洗面所へ行った。
手を洗って戻って来ると、みんなで「いただきます」と言って朝ご飯を食べた。
「お姉ちゃん、ご飯たべた後、なにして遊ぶ?」
「そら、とわ。ご飯食べたら、あおいちゃんは家に帰るのよ。」
「何で、やだ。どうして帰っちゃうの?」
「お母さん。お昼まで遊んでもいいでしょ」
「ずるいよ、昨日はお兄ちゃんが、独り占めしてたじゃない」
そらととわは、文句を言った。
「そら、とわ。お兄ちゃんとお母さんは、あおいちゃんを家に送るから、二人はお留守番してね。」
「いや。遊んでくれないなら、私も一緒に行く」
「外は暑くて、とわには無理よ。」
「やだ!私も行きたい。」
とわが、テーブルをドンドンと叩いた。
「しょうがないわね。・・・わかったわ、車でみんな一緒に行きましょう。」
「わーい!」
とわは、母さんの言うことを素直に聞くのに珍しいな。母さんも、とわには我慢させずに何でも言うことを聞くものだから、俺の我儘もたまには聞いて欲しいと思う。
そう言えば、木藤が家に遊びに来た日、とわは早く帰ってしまったのは自分のせいだと責めていた。
とわのせいでは無いと、いくら言っても聞いてはくれなかった。
まだ二回しか木藤に会っていないのに、そらととわはどこを気に入ったのだろうか。
とりあえず、木藤のことを嫌っていないのならば、それで良いのだけれど。
ご飯を食べ終わると、家の戸締りをして、出かける準備をした。
外に出ると、蝉の大合唱で、聞いているだけでも暑苦しい。
「助手席は、あおいちゃん座ってね」
みんなが車に乗ったのを母さんが確認すると、木藤の家へと出発した。
木藤の家までは、歩いても10分くらいで着いてしまう。車だとあっという間だ。
これでは木藤と話せないまま、家に帰ってしまう。
何か一言でも木藤に話したいのに、みんながいると話せない。
俺は窓の外を眺めながら、どうしたら良いんだ、と焦ってしまう。
結局、何も話せないまま、木藤の家の前に着いてしまった。
エンジンをかけたまま、車を止めると、木藤と母さんが車から降りた。
「すぐ戻るから、車で待っていて。あおいちゃん行きましょう。」
「はい」
車の扉が開くと、ムッとする熱い空気が入って来た。
そらととわが窓を開けて、木藤に言う。
「お姉ちゃん、今度はぜったい遊ぼうね。」
「また来てね。バイバイ」
そらととわは、木藤に手を振った。
「またね。バイバイ」
木藤も妹に手を振ると、木藤は一瞬俺に目を向けたけれど、母さんが「あおいちゃん」と呼んだので、お互い何も言えずに別れてしまった。
母さんが、木藤の家のインターホンを鳴らすと、木藤のお母さんが出てきたのが見えた。
木藤のお母さんと俺の母さんが何か話して、木藤は家に入っていった。
それを、俺はただ車の中で見ているだけだった。
車に戻ってきた母さんは、少し不機嫌そうに見えた。
「まったく、暑いわね。さ、帰りましょう。」
そう言うと、車を走らせた。
だが、少し走ると母さんは、車を路肩に止めた。
「少しドライブしようか。夏休みなのに、どこにも連れて行ってあげられなかったものね。」
「やったー」
そらととわは、手放しで喜んだ。
「仕事は、いいの?」
俺は喜べずに、母さんにイヤミを言ってしまう。
「大丈夫。今からお休みもらうわ。だから流星、携帯かしてくれる?」
「はぁ?だからってなんだよ。なんで、持ってこないの?」
「すぐ帰るつもりだったから、置いてきたのよ。持っているでしょ。」
「あるけど?・・・はい」
しぶしぶスマホを母さんに手わたすと、母さんは会社に電話した。
「あ、永瀬です。今日お休みもらいたいんですけど・・・。えっ、大丈夫、元気ですが・・・あっ、ほんとですか?ありがとうございます。」
電話が終わるとスマホを返してもらう。
「流星、ありがとう。休みもらえたわよ。どこに行きたい?」
「海!海!」
「海がいい!」
そらととわは無邪気に言った。
「そらととわは、海ね。流星はどこ行きたい?」
「どこでもいい」
俺は投げやりに言う。
今は、とてもドライヴに行く気分じゃなかった。
「じゃあ、決定、海へ行こう!」
「やったー!」
木藤のことが無ければ、海に行くことは嬉しかったはずだ。
でも、俺一人が喜べないでいた。
木藤のことは、全て母さんに任せてしまって、今の俺では、何にも出来なかったことが悔しいのだ。
昨日から、どうやって木藤を守ることが出来るのか考えているのだが、答えが見つからない。俺に出来ることは無いのだろうか?
家に帰った木藤は、今どんな気持ちでいるのだろうか。
でも、どんなことがあっても、木藤を一人にはさせない。そう自分に誓った。
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