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夕方の誰もいない小学校は、街の喧騒を忘れるほど静かだった。
蝉の声だけが鳴り響いていた。
フェンスと体育館の間の細い道を通って行くと、校庭に出た。
すぐ目の前には、プールがあった。
永瀬くんが、プールに入って行くと、私も後に続いた。
プールに近づくと、あの独特の匂いがする。
永瀬くんについて、小学校のプールに来ちゃったけど、ほんとうに良かったのかな。
プールサイドに来ると、目の前で永瀬くんは洋服を脱いでしまった。
けれど、下にはちゃんと水着を着ていた。
ここまで来てしまったけど、やっぱりいけないことだと思う。
「プールに勝手に入っちゃ、いけないんじゃないかな・・・」
私は、弱々しく小声で永瀬くんに言う。
「そんなの知っているよ。でも、入ったら気持ちいいよ。」
「でも・・・」
今さら後悔しても、遅いのかもしれないけれど、誰かに見られたりしたらと思うと、居ても立っても居られない。
「水着無いから入れない?下着で入ればいいじゃん。ほら、ビキニと思えばいいんだよ。布面積は一緒だろ?」
「え?ヤダ!下着と水着じゃ全然違うんだから!」
「・・・ん、じゃあ裸で!」
何を言っているの、冗談でもそれは無い。永瀬くん本気じゃないよね?
「いやーーー!!!」
私は大声で叫ぶと、永瀬くんを突き飛ばして、プールに落とした。
バシャーンと、大きな水音と飛沫が上がった。
「あははっ。気持ちいい」
プールから顔を出した永瀬くんは、全然怒ってなんかいなくて笑っていた。
「足だけでもプールに入ったら?冷たくて気持ちいいよ。」
「・・・うん」
暑い中歩いて来たので、たくさん汗をかいていた。
泳いでいる永瀬くんを見ていると、ブールは冷たくて気持ち良さそうだ。
どうしよう、足くらいなら入っても良いかな。
そう思って、プールに足を入れようとしていた時だった。
「こら、ダメだぞーーーー。また、勝手にプールに入ったなーー!」
永瀬くんがプールに落ちた音を聞いたからだろう。
おじさんが怒鳴り込んできた。
「くそー、もう来たか。逃げるぞ!」
「え?・・・逃げる?」
永瀬くんは、プールから上がると素早く洋服を着た。プールから校庭に出ようとして、振り向いて私を見る。
ビックリして慌てふためく私は、どこに逃げていいのかわからなくて、右往左往した。
もたもたしている私に、永瀬くんは手招きした。
「こっち、こっち。ここから出られる。」
手招きして悪戯っ子みたいに、ニッと笑っている永瀬くんは楽しそうだ。
永瀬くんは、私がプールから校庭に出たのを確認すると、「走るよ」と言って一気に走り出した。
私も、永瀬くんに遅れないように、必死に走って後を追った。
正門に着くと、永瀬くんが門を開けてくれて、一緒に小学校を出た。
小学校の外に出られると、ほっとした。
でも、いきなり全速力で走るから、熱くて汗が噴き出てきて、息が苦しくなった。私は胸に手を当てて、大きく深呼吸をして息を整えた。
「木藤、後ろに乗って」
呼ばれて振り向くと、永瀬くんは自転車に乗っていた。
どこから自転車持ってきたの?
後ろに乗ろうと思うが、一瞬ためらう。
「だめだよ。勝手に乗ったら、自転車泥棒だよ」
「俺のチャリだから、いいの。ほら、急いで乗って」
そう言われて、しぶしぶ後ろに乗ると、永瀬くんはすぐにペダルを漕ぎ出した。
「あの・・・二人乗りって、いけないんじゃないの?」
私は、少し迷いながら言った。
永瀬くんだって、二人乗りはいけないことだと分かっているよね。
「まじ?後ろに乗ってから、それ言うか?」
「だって、永瀬くんが乗れって言うから・・・」
走り出した自転車からは、降りたくても、降りられない。
「あっ、本当だ!」
永瀬くんは言った後、暢気にクスクス笑っている。
「どこに行くの?」
少し、イライラしながら聞いた。
これ以上、家に帰る時間が遅くなっては困ると思ったからだ。
「マック!行ったら嘘ついたことにならないだろ?」
永瀬くんが振り向くと、濡れた髪の滴が飛び散ると、夕日に輝いてキラキラとした。
「え・・・?うん・・・そうだ・・・ね・・・」
私の声が、だんだんと小さくなっていく。
私がついた嘘なのに、どうして、なぜ?と疑問符が浮かぶ。
そして、私の心臓がドキンと大きく跳ねると、同時に鼓動が早くなった。
小学校から駅前に戻って来た。
ハンバーガーショップに着くと、自転車は止まった。
「ちょっと待っていて、チャリおいてくる」
私が自転車から降りると、永瀬くんは私の返事を待たずに、駐輪場に止めに行ってしまった。
すぐに永瀬くんは戻って来た。永瀬くんの履いているハーフパンツが、グッショリと濡れていた。
「永瀬くん、濡れているよ・・・」
私は、ハーフパンツを指さして言った。
「うわ!やばい、まじか・・・。
あ~まいったな。濡れたまま着たからか・・・。まぁいいや、そのうち乾くだろ」
そう言うと、永瀬くんは履いているハーフパンツを掴んで、パタパタとした。
「はい、これ」
私は、カバンからパーカーを出した。
パーカーは、塾のエアコンが効き過ぎて、寒くなった時に着るために持っていたものだ。
「サンキュ、でも汚しちゃうから、いいよ」
「使って、汚れたって平気・・・」
「あーーーーっ!!」
突然、大声を出した永瀬くんにビックリする。
「え?な、何?」
「俺、アイスの金しか持って無かったんだ」
「じゃあ・・・。私、お金出すよ。」
永瀬くんは、女の子に奢ってもらうなんてなぁ・・とぶつぶつ言っていた。
「んじゃ、お金はあとで返すよ。よーし、腹減ったし、食べよう」
永瀬くんはパーカーを受け取ると、腰に巻いてお店に入って行った。
私も、お店の中に入った。
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