第三章、木は体である、其、滅び無き体の滅美行く兆し

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小桃姫が父の下衆な笑顔に恐怖していた所に一人の使用人が場に割り込んだ。 「失礼します! 檜千代多皇子にお目通りにかかりたいと言う者が屋敷に見えております!」 「どこの誰じゃ」 「絨毯を織った職人であります。あちらにお見えになっております!」 使用人が手を向けた先には二人の母娘がいた。娘の方は目に布を巻き杖で地面を突いていた。それを見た刹那に檜千代多皇子は舌打ち気味に蚊の鳴くような声で「来るなよ」と呟いた。小桃姫はそれを聞き逃さなかった。母親の方が遠目で檜千代多皇子を見つけると娘の手を引いてこちらに近づいてきた。 「檜千代多皇子様! あれだけのものを織って報酬が金一貫と葛籠一杯の蜜柑とは酷すぎます!」 母親が訴えるが檜千代多皇子はそれをロクに聞く気配がない。小指で耳の穴を穿り小指にこびりついた耳糞を母親に向かってふぅと吹きかけるのだった。 「ニヶ月の生業としては妥当では無いか」 「いえ! 昼も夜も休みなしに機織り機の前に交代で立たせて光を失った報酬とすると少なすぎます!」 今、小桃姫が持っている絨毯。それはこの織物職人の母娘の家で作られたものである。この絨毯を作るにあたって檜千代多皇子は正倉院にある絨毯を見て「我が工房の機織り機でもこんな立派な絨毯を作りたい」と考えた。この絨毯に詳しい者に話を聞いた所、この絨毯はペルシヤ王国で作られており、その作る過程を「指の小さな少女に連日連夜機織り機で織らせる」と聞いて自分の工房の機織り機でそれをやらせたのであった。昼も夜も無く目を使う細かい作業を強制された娘は光を失ってしまった。ペルシヤ王国ではこのような少女が織った絨毯が売られているのだが、この影で光を失う少女がいる事はあまり知られていない……
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