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隆人が、朝、教室の戸を開けると、彼と同じくらい背の高い少女が、箱入りのフィギュアのように立っていた。鈴原エレナだ。彼女は、すれちがいざまに教室から出ていった。
教室は、空気が蒼く染まっているように見えた。三々五々同級生が集まっている。
おはよう。と一番近くにいた二人組の女子に隆人は声をかけた。二人は会話を止めた。が、挨拶はなし。無視している。
まあいいさ。いつものことだ。
隆人は、窓際の自席に鞄を下ろした。外の雲が早く流れている。あの雲に乗って、どこか、ここではない場所に行けたら。
おはよう。後藤と山田が来た。二人は、昨夜の魔法少女のアニメの話をしている。
「隆人、なんでコミケ来ないんだよー」
「反省中なので自粛!」
隆人が高らかに宣うと、二人は黙りこんだ。
「えーと、プログラムの宿題やってきたぞ」
隆人は、USBキーを二人に渡した。
「すっげえー。たった二日で、これだけのプログラムを三人分も? 天才、神様、相田様」
「ただ好きなだけだよ……もうスマホしまえよ。先生に没収されたくないだろ」
そそくさとスマホをバッグの底に隠す二人。みんなSNSやゲームをして、金を吸いとられている。
僕は、金を吸いとられる側にはならない。隆人は決めている。提供される娯楽を消費するだけだから、金を奪われるんだ。僕は、コンテンツを作って金を稼ぐ。
一限目は古文の授業だ。隆人は全く興味が持てない。千年も昔のことを、古い言葉を解読して知るなんて、僕らの時間を浪費しているに等しい。
「相田隆人! あくびすんな、真面目に聞け」
すいません、と隆人は素直に謝った
「つまらないなら、面白い話をしようか」
中年教師はニヤリと唇の端を曲げた。
「平安時代は、『通い婚』だったのは知っているか? 男が女の家に夜這いして、一夜を共にできたらイコール結婚だ」
えー、と教室から声が上がる。
「夜這いって、夜、女の家に忍びこむこと? 犯罪じゃん」
「まあ、昔の男子は、草食系じゃなくて、女をものにするために、犯罪すれすれの行為をするほど情熱的だったってことだ。待てよ、今も女の尻を追いかける奴もいたっけか」
教室中がどっと湧いた。一人残らず隆人を見ている。国語教師も笑っている。隆人の全身から血の気がひいた。
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