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ーー僕は高一の時、同級生の早川さんを好きになりました。学校で見つめるだけでは飽き足らず、彼女の家までついていったら、ストーカーと呼ばれ、警察に捕まりました……
学校帰りに、駅前の商業ビルに入っている本屋でプログラミングの本を買った隆人は、早川さんらしき人影を見つけた。ウェイブした長い髪、豊かな胸と細い腰の蜜蜂のような体。でも、はっきりしない。もっと近づいてみないと。
だめだ。あの時警察で誓わされたことを忘れたのか。彼女の視界の範囲内、半径百メートル以内には近づかないと。警察から呼び出されて、隣に座っていた母は泣いていた。
あんな目に遭うのは二度とごめんだ。そう頭で唱えながら、足は歩き出している。まるで磁石に引きつけられる砂鉄のように。
隆人は、彼女を探してビルを上がっていく。
ーー 一体、どこに行った?
焦ってビルの非常階段を駆けあがった隆人の足が滑った。あ、と思う間もなく、階段を転げ落ち、固い床に頭をぶち当てた。
痛みで、隆人は目を覚ました。床が冷たい。気を失っていたのか。階段の踊り場の床が横向きに見える。
隆人はそっと体を起こす。体中が痛い。頭が痛い。涙が出てきた。もうフラれて、迷惑にさえ思われている女を追いかけて、転んで、一体何をやっているんだ。
何とか立ち上がり、痛みをこらえ、体を引きずるように最上階まで昇った。そこに店舗はなく、早川さんどころか人一人いない。
隆人は荒く息をしながら、既に暗くなった風景を映す窓に体を預けた。ガラスが冷たくて気持ちいい。
休みながら外の街を見下ろすと、向かいのビルの一階下の部屋が明るく光っていて、制服の少女が横たわっていた。見憶えがある。目を凝らすと……鈴原エレナだ。目を閉じている。
何か異様だった。エレナは診察台のような寝椅子に横たわったまま、呼吸している気配さえ見えない。まるで死体のようだ。
見えない背中にナイフが刺さって出血。そんな絵が脳裏に浮かび、隆人が動き出そうとした時、エレナの部屋の照明が消えた。
暗い部屋で何か点滅している スポットライトが顔に当たり、光の円の中、エレナが目を見開いた。瞬きする。スイッチオン。磁器のような肌が無機質さを強調している。
続いてエレナの首から上だけが動いた。右に、左に、まるでモーターが回っているかのように一定の速度で。次に口が開く。
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