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「……触りかた、やらしい」
しばらくなでられるままになっていた奏音が、フッと小さく吐息をもらす。
「ハア? なに言ってんの? 普通だけど」
「そこ、頭じゃないし」
いまは、首筋をするするなぞってみているところだ。
「別に頭なでますって報告してないし」
「もう……そんな、」
ラジオのスイッチを切ったみたいに、言葉はそこで唐突に途切れてなくなった。据わった目をした顔が持ちあがったと思った次の瞬間には、もう唇は触れあっていたと思う。柔らかいのに押しの強い、しっかりと意思をもった舌が滑り込んでくる。最初からぐいぐいくるなあ、と嬉しく思いながら身を任せていたら、彼の興奮がどんどん増していくのが、皮膚から粘膜から直接ビリビリと伝わってきた。こっちまで痺れてしまいそうだ。
あけっぴろげにがっついてくる奏音はこの部屋の記憶にはなくて、想い出に守られていたこの場所で味わうにはちょっと不釣り合いで、それがまた逆に心地よかった。あの頃触れられなかった境界線をオレからつついていれば、積み上げてきたものをいい方向に倒せていれば、こういう彼をすぐにでも見られたのかもしれない。そう、頭の隅でやっぱり考えてしまう。
考えてしまってから、すぐさまかき消した。オレの悪い癖だ。
「ふっ……みなと……。したいの……?」
息を継ぎながら喋ると、ゼロ距離にある唇と触れあってしまってぞわぞわする。キスに夢中な奏音は返事をしない。うなずきもせずにオレを服従させようとしている。そう気づいてしまって、たまらずぎゅっと抱きしめた。
「んっ……」
触れた指を微かに動かして、くすぐるのではない微妙なタッチでいたずらしてみる。敏感な彼はそのたびにビクビク震えて、それでも負けじと攻めの姿勢を崩さなかった。対抗策か、吸いつきまくってくる唇が矛先を変更し、耳を集中攻撃しはじめる。そうするとオレもやっぱり負けたくなくて、服の上から触れていた手をこっそり裾から侵入させ、直接素肌に触れる作戦に出た。
「あっ、ずるいよっ……」
「ずるいって? 先にはじめたの……っ、……奏音じゃん?」
話している間にも気を抜くとへんな声が出そうになって、グッと腹に力をいれた。
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