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「もう、……先にはじめたんだから、察してよっ……あっ、そこ、だめ……ッ」
乳首をふわふわといじると、とたんに声がうわずった。
「だめじゃないじゃん。もうぷっくりしてる。もしかして下も」
「だ、だめっ」
むきになった唇が、尖ったままぶちゅっと不器用にくっついてきた。ぎゅっと密着してオレの手が前に回らないように阻止してくるから、しかたなく無防備なままの背中をするするとなでる。やっぱりスイッチでも入ってるみたいに小さい反応を繰り返す奏音が、どうしようもなくかわいいと思ってしまう。触れられる経験が浅いせいか、オレの身体はまだ彼よりは鈍感にできている。それを必死に開発してくれようとする奏音もかわいい。
会わない間、彼をこうやっていじめる相手がほかにいなかったということは、なによりもの救いだと思う。いまになってもまだ、彼のこんなかわいいところはオレ以外に知る男はいないのだ。それがどれほど幸せなことか、奏音にはわかるだろうか。
ノンケの男が、自分の経験を棚にあげて「相手は処女がいい」っていうのと少し似ているのかもしれない。けれど似て非なるものだと思う。経験がどうとかじゃなくて、相手のかわいいところを全部オレが独占したいという、ただそれだけのことだから。
お互いにそれ以上踏み込ませないまま、いつの間にかただかたく抱き合ってキスをするだけに戻っていた。身体はがっちり密着しているのに、キスは浅いところで繰り返すばかりで、リップ音が無駄に大きく反響していく。その音が刺激になって興奮は増すのに、行為はいっこうに進みをみせない。
それでも充分に気持ちよさはわかる。さっきからゾクゾクが止まらない。唇の感触の柔らかさを再認識する。触れたら壊れそうにぷるぷるとおぼろげなのに、なんだかとても甘い味がする。
「ん……くちびる、腫れちゃう……」
取りこぼしたように奏音がささやいて、それから同時に笑いがもれた。お互いに拘束しあっていた腕をゆるめ、額と額をくっつける。見上げた先に、すぐに愛しいひとの瞳があった。かすかに水を湛えてキラキラ輝いている。
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