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「奏音」
「ん? 痛い?」
「……違う。オレ、そんな……気持ちよくなさそうに見えてんの?」
「…………へ?」
すっとんきょうな声が飛び出した。目を丸くして見つめてくるので、相当見当違いの質問をしてしまったのだろう。なんだかばかばかしくなって、フッと力が抜けた。その瞬間、奏音が静かになるのを見計らったようなタイミングで、おさえられなかった声がもれだしてしまう。
「ふ、あっ……」
奏音がさらに目を見開く。それは喜んでいるようにも、怒っているようにもみえる微妙な表情だった。
「我慢してたでしょ」
「あ、……ちがっ……ん……ッ」
容赦なく指を増やされて、うまく喋れなくなる。痛いなんてとんでもなかった。奏音はいつでもいたわるように優しくしてくれるから、じわじわ、ゆっくり沈んでいくみたいな深い快感に溶けていく心地がするのだ。それを、奏音にうまく説明はできないのだけれど。
「さっきまでずっと声出してなかったじゃん」
「それ、は、がまんていうか、あの……オレ、自分の声、おかしくて……自分で萎えるから」
「……嘘でしょ」
心底あきれたように奏音がこぼす。
「嘘じゃないって」
「そんなに色っぽいのにっ」
「……怒んなよ」
「怒ってないよ。もったいないって思っただけ」
「……ハア? マジで言ってる?」
「マジで言ってる!」
「だから怒んなってば」
「怒ってない。あきれてるけど!」
ぷりぷり叫ぶ奏音の勢いに気圧されて、なにも反論できなくなる。口のなかだけで「だってしかたないじゃん」と言ったけれど、もちろん奏音には届かなかったはずだ。
「星児のえっちな声、最高だよ。言ったじゃん。僕が好きなんだから、隠さないで、全部みせて?」
「……ん」
「わかればよろしい」
大仰にうなずいて、奏音は前触れもなくズッと指を引き抜いた。え、このタイミングで、と慌て始めるオレにはお構いなしに、支度を済ませていざ出陣、と意気込んだ分身をいい位置にあてがわれる。
「ま、え、……ちょ、……あっ……!」
反射的に逃げて腰を浮かせてしまったのが逆に好都合だったようで、上からおさえつける力と下から押し込んでくる圧力が同時にかかって、いとも簡単にとらわれてしまった。
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