とけないでほしかった

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 おれの飼ってたスライムが、ある朝溶けてなくなっていた。 泊まった宿屋のシーツをめくると、 死んだ魚の目のように変わり果てたスライムの目と唇と核だけが、水たまりのような 液体化したゼリーの上に浮かんでいた。 いなくなって初めて、もっと優しくしとけばよかったなと思った。 子供のころ飼ってたハムスターが亡くなったときもそう感じたはずなのに。 モンスター使いのおれの唯一無二の相棒の急な死。 そんなに簡単に死ぬとは思っていなかったといえば嘘になる。 重い兜を被らせたからか。 スライムナイトの真似事でテンションあがって 魔法を唱えるたびにドンドン上でイキって暴れたことを後悔した。 最近張りがなくなって痩せていたことにもっと注意を払うべきだったのか。 太ってるときにもっと糖質制限させとけばよかったのか。 煙草も酒もギャンブルも一緒になってやっていたが、 決して悪いスライムではなかったと思う。 おれが回復系ツーショットキャバクラの店ばかりいくのも、黙認してくれた。 売春宿で女が股間にゼリーをあからさまに塗っているのを見て 急性インポテンツになったときも、慰めてくれたりした。 宿屋で女子大生を連れ込んでベッドでイチャイチャしてた時も、寝たふりしてくれたね。 ずっと隣にいてくれたね。 昨日の戦闘で急所を突かれたのがまずかったのかもしれない。 最後の敵の攻撃をかばってくれたとき、核を壊されたんだね、きっと。 それか、灼熱の息ばかり命令したからか。 むしろそんな魔法が身体に負担がかかり、君を苦しめたのかもしれない。 擦っても擦っても、シーツから下の方のゼリーが取れないので、シーツ代を弁償して宿を出た。 集めたゼリーの中から核に刺さったオークの槍の先っぽの欠片が見つかった。 きっとあの攻撃のせいだ。 君が命を守ってくれたんだね。 いつだって影のヒーローだっだね。 少しの間、泣いて泣いて泣いた。 2人が初めて出逢った場所に埋葬した。 小高い丘にある教会で柔らかな日差しを浴びながら、 もう一度、もっと優しくすればよかったと後悔した。 自分のラインのプロフィール画像を、溶ける前の元気だった君に変えた。
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