2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、知ってる?最近、溶ける病気が発見されたの!」
「あーっ、知ってる!ニュースで見た。」
「ストレスが溜まると体が溶けちゃうやつでしょ。マジヤバイやつじゃん。」
「その内、うちらも溶けちゃうんじゃない?」
夕方の買い物帰り、そろそろ太陽が沈む頃、目の前をダラダラと歩く女子高生の会話は、聞きたくなくても耳に入る。
確かに、最近テレビのニュースでその話は聞いた覚えがある。
人間が溶ける。
珍妙とも思える現象が、現実に起きているのだから、世も末ではなかろうか。
健康に問題のない人間が、突然溶ける。
殆どが指先らしいが、まるで湯煎されたチョコレートのようにトロリと溶けて落ちるというのだ。
そして、原因究明に乗り出したどこぞの研究チームにより、最終的に導かれた結果が極度のストレスによるものなのだそうだ。
アホらしい。
アパートへと続く左の脇道へ入ると、向かいから彼氏がニコニコしながら近づいてくる。
「お帰り。」
「ただいま。買い物してたの?持つよ。」
「うん、ありがとう。」
週に何度かうちに来る彼氏はいつも優しくて、私はこの人といると安らげる。
「今日は仕事終わるの早かったの?」
「うん、だってさ、俺にいつも残業ばっかさせるからさ、見てよ。」
荷物を持つ手と逆の手を私に向けて広げると、人差し指の先が無かった。
「えっ?どうしたのこれ、まさか、溶けたの?」
「・・・そうみたい。」
「そうみたい、って。早く病院行こう、労災だよ、パワハラのせいでこうなったんでしょ、まずは病院に」
「・・っせぇな。もう、いいんだよ。」
「・・・・透?」
「大丈夫だから。もう、ストレスの原因はなくなったから。」
首筋を冷たい風が通りすぎていく。
よく見ると、コートの下から見えるワイシャツに血がついている。
「透、何したの。」
「どうした、彩。寒い?震えてるよ。」
握られた手はとてつもなく冷たい。
どこからかパトカーのサイレンの音がする。
「透、わたし・・・。」
震える声の私と、ニコニコ楽しそうな彼氏。
極度の緊張が体を蝕んでいく。
原因は無くなった?
原因は亡くなった?
「・・・彩。溶けてる。」
その声は今まで聞いたこともない冷たい声だった。
名前を呼ばれた彼女は頭からどろりと溶けてその場に崩れ落ち、後には何も残らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!