やまい。

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「ねえ、知ってる?最近、溶ける病気が発見されたの!」 「あーっ、知ってる!ニュースで見た。」 「ストレスが溜まると体が溶けちゃうやつでしょ。マジヤバイやつじゃん。」 「その内、うちらも溶けちゃうんじゃない?」 夕方の買い物帰り、そろそろ太陽が沈む頃、目の前をダラダラと歩く女子高生の会話は、聞きたくなくても耳に入る。 確かに、最近テレビのニュースでその話は聞いた覚えがある。 人間が溶ける。 珍妙とも思える現象が、現実に起きているのだから、世も末ではなかろうか。 健康に問題のない人間が、突然溶ける。 殆どが指先らしいが、まるで湯煎されたチョコレートのようにトロリと溶けて落ちるというのだ。 そして、原因究明に乗り出したどこぞの研究チームにより、最終的に導かれた結果が極度のストレスによるものなのだそうだ。 アホらしい。 アパートへと続く左の脇道へ入ると、向かいから彼氏がニコニコしながら近づいてくる。 「お帰り。」 「ただいま。買い物してたの?持つよ。」 「うん、ありがとう。」 週に何度かうちに来る彼氏はいつも優しくて、私はこの人といると安らげる。 「今日は仕事終わるの早かったの?」 「うん、だってさ、俺にいつも残業ばっかさせるからさ、見てよ。」 荷物を持つ手と逆の手を私に向けて広げると、人差し指の先が無かった。 「えっ?どうしたのこれ、まさか、溶けたの?」 「・・・そうみたい。」 「そうみたい、って。早く病院行こう、労災だよ、パワハラのせいでこうなったんでしょ、まずは病院に」 「・・っせぇな。もう、いいんだよ。」 「・・・・透?」 「大丈夫だから。もう、ストレスの原因はなくなったから。」 首筋を冷たい風が通りすぎていく。 よく見ると、コートの下から見えるワイシャツに血がついている。 「透、何したの。」 「どうした、彩。寒い?震えてるよ。」 握られた手はとてつもなく冷たい。 どこからかパトカーのサイレンの音がする。 「透、わたし・・・。」 震える声の私と、ニコニコ楽しそうな彼氏。 極度の緊張が体を蝕んでいく。 原因は無くなった? 原因は亡くなった? 「・・・彩。溶けてる。」 その声は今まで聞いたこともない冷たい声だった。 名前を呼ばれた彼女は頭からどろりと溶けてその場に崩れ落ち、後には何も残らなかった。
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