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〇
通勤途中の十字路には彼がいる。
「やあ」
「どうも」
ダウンで着ぶくれしたぼくがいつものように声をかけると、彼もまた陽気な返事を返してくれる。
雪の多いこの地方。一面が白い景色に覆い尽くされる頃になると、どこからともなく現れる、一抱えほどの雪の塊を二段に積み上げたゆきだるま。
頭に押し込められたふたつの青いビー玉が、冬の朝日にキラキラと輝いていた。
「路面が凍ってるから気を付けてね。さっき増田さんのおちびちゃんが転んでた」
胴体から生えた二本の枝には軍手がひらひらと揺れている。
吐き出す息が白く流れて行く。吹き抜ける風で耳がちぎれそうだ。防ぎようのない顔を冷気が撫でまわしていく。鼻が冷たく、赤くなる。
防寒着でむくむくに丸くなっても、肩を縮こませてポケットに手を突っ込んだ。
ぼくは礼を言って、凍った歩道を慎重に進んで会社へ向かった。
「ちょっと痩せた?」
いつもの通勤途中の十字路でそうたずねた。
まんまるだった雪だるまの頭や身体の輪郭が、心なしかしゅっとしている。
「最近、温かくなってきたからね」
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