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景色に覆いかぶさっていた白色から、もとの色が顔を出していた。雪だるまがいる空き地も、雪が解けて茶色や緑の植物が背伸びをしている。
白一色だった風景にもとの色が戻り始めていた。
雪だるまの腕の軍手が片っぽなくなっている。
昨日吹いた春一番で飛んで行ってしまったそうだ。
彼は見かけるたびに形を変えていった。一抱えもある雪玉だったなんて、思えないほど溶け出している。適当にかき集めた残りの雪を重ねたような、頼りない姿になって行った。
彼は、春をどう過ごすんだろう。
そう思いながら出勤の支度にとりかかる。日差しがまばゆく差し込み、寝起きの身体を溶かすように温かい朝だった。
家から出て数分で上着を脱いだ。脇に抱えて歩いていくが、下に着ているセーターですら暑かった。じんわりと汗がにじみだす。
十字路にさしかかる。
「やあ」
「どうも」
もはや彼は雪だるまではなくなっていた。手のひらほどの雪しか残っていなかった。空き地に雪はすべて溶け切ってしまっている。
「きみは春の景色を見れないのか。そこの桜の木はとてもきれいに咲くんだよ。散った花びらでこの空き地は桜の絨毯が出来るんだよ」
「あなたの言葉だけで素敵な景色を想像できます。ありがとう」
少量の雪のなかで、青いビー玉がきらりと光った。今日の空と同じような、雲一つない透明な青い色をしている。
「また冬にお会いしましょう」
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