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オープニング
まるで勇者の剣のように、流木がオレンジ色の砂浜に突き立っていた。
今にも沈もうとする夕暮れが海面に彩りを与え、色を帯びた波が穏やかに押しては引いてを繰り返す。揺りかごのような心地良い音色を作りあげる。子供たちの仕業だろう、小さな砂の城が波打ち際に建てられ、赤いボールが風に転がされていた。
そんな放課後の砂浜に、僕たちは集まっていた。
四人で正四角形を作るように並び、中央を基点に向かい合うようにして立っている。そしておのおの、自分の手の中にあるものを見つめていた。
それぞれの手のひらには、一枚の貝殻。
そこら辺の砂浜に転がっている何の変哲もない貝殻ではあったが、揃って硬い表情で釘づけになっているーーただ一人を除いては。
潮風に制服のスカートが揺れる。夕日を背にした『彼女』が朗らかに言った。
「それじゃ、オストラシスを始めましょうか」
いつものあっけらかんとした口調で、逆光で見えないが、恐らくいつもの屈託のない笑みを浮かべながら。
オストラシス。
それは僕たちにとって、悪夢とも呼べるものだった。こんなことに何の意味があるのだと、何度僕は心でも言葉でも訴えたことだろう。
しかし『彼女』は周りを見回してから穏やかに続ける。
「仕方ないわ。平穏を脅かす魔王は、どこかへ追い払わなきゃいけないもの。あたしたちの部の平穏は、保たれなければならないの」
沈黙の中、示し合わせたかのように僕たちは一歩、前へ進みでる。四本の腕が中心に向かって突きだされ、十字を作った。手の中に閉じこめた貝殻が粉々に砕けるのではないかと思うほど硬く握りしめた手もあれば、ぶるぶると儚げに震えている手もあった。
『彼女』は無言のまま僕たちに視線を送り、ゆっくりと頷く。締めつけるような緊迫が場をとり巻いた。
砂の城がさざ波によって脆くも崩れ去る。
赤いボールは海に引きずりこまれ、孤独にたゆたう。
突き立った流木の細く長い歪な黒い影がーーわずかに伸びた。
無言のまま四人は握った手を裏返し、ほとんど同時に、指の中に隠された四つの貝殻が姿を現す。
ーーそして、『魔王』は選ばれた。
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