二章

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 早足気味に階段をのぼり、最後はほとんど駆けるように角を曲がると、果たしてその女性――いや、その女の子はまだそこにいた。白い封筒を胸に抱えるようにして、こちらに気づかず外の景色を眺めている。その横顔を見て、張り詰めていた緊張は少し緩んだが、また違うタイプの緊張へと変質した。 「……沙凪か?」  声をかけると彼女は少し驚いたようにこちらを振り返る。口元を手で抑え、僕だとわかるとゆるやかに表情をほころばせた。 「お久しぶりです、空木さん」  彼女は封筒を大事そうに抱えたまま、折り目正しくゆっくりとお辞儀した。  一、二、三――と。卒業式の予行練習のように、完璧なリズムで。  凛々浦沙凪(りりうらさなぎ)。  お淑やか、という言葉がこれほど似合う人間は他にいないだろう。  学生鞄を肩にかけ、休日に拘わらず制服を着ている。彼女の私服を見た記憶がない。窓から入るそよ風が沙凪のスカートとを揺らす。半年前と雰囲気が少し違って見えるのは、彼女がその長く柔らかな茶色の髪を結い、肩から流しているからだろう。そのせいか幾分大人っぽく感じる。 「あ、ああ」  言葉が濁る。礼儀正しすぎる彼女の仕草に対してではなく、彼女に対して抱く罪悪感が僕をそうさせた。 「ハートレスサークルはーー部室へは、まだ通っているんだな」 「はい」  沙凪はいつもと変わらない笑みを浮かべて頷いた。  ハートレスサークル。それが僕らのサークル名だった。     
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