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一章
捨てられた空のペットボトル。砂浜のシーグラス。打ち上げられた浮き袋。
『彼女』は近くの海辺から拾ってきては僕たちの部室に持ちこんで、遊び道具や観賞用のオブジェにして自分色の空間を創り上げていたーーまるで烏が、拾ってきたハンガーや針金でせっせと巣作りをするように。おかげで部室はガラクタであふれかえるという有様だった。
バシャバシャと洗面所の冷えた水で顔を洗う。
瞼の内側が刺激されて目の奥が引き締まった。用意していた白いハンドタオルで顔を拭って鏡に向かい、少し跳ねた黒髪を指先で丁寧に直す。
滲んだ視界は、眼鏡をかければ途端にクリアになる。目の前には睨むような切れ長の瞳、細い眉。口元は真一文字を通り越してへの字に曲がっている。仏頂面だとよく言われるが、特に不機嫌だからというわけではない。これが素なのだ、と誰に対するでもなく弁明をしてしまう。
「にしても、嫌な夢を見たな」
放課後の海辺ーー手の平の貝殻ーーそれに、オストラシス。波音すらも鮮明に聞こえたあの夢は、半年前に本当に起きたことだ。今頃になってあんな悪夢を見ることになろうとは。
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