一章

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『クロノファンタジー』は王道的なRPGだ。  白馬に乗った剣士と、可憐な法術士の少女のイラストがパッケージに描かれている。 『過去と未来を紡ぐRPG』と緑色のフォントであるように、内容は過去や未来を時間転移しながら魔王を追いかけ打倒するストーリーだった。バトルシステムやストーリーの完成度が高く、発売当初から人気があった。当時は中学生だった僕もまた柄になく熱中した記憶がある。  プラスチック製のケースを開けてみると、はらりと一枚の紙切れが落ちた。  大きさは手の平ほど。少し暗かったので僕は玄関の照明をつけ、紙を拾い上げる。何やら鉛筆でびっしりと書きこまれていた。   北の方角→死の灯   南の方角→生命の木   西の方角→水の乙女    東の方角→悪戯な風   等々。  難解な暗号のようにも見えるが、何のことはない。ゲーム内に出される謎解きの際にメモしたものだろう。ゲームでこういった暗号が出てきた場合は僕もそうしていた。  そしてその真ん中に、一際強い筆力で書いたであろう一文があった。  ――目指せ! エルドランド!  鉛筆でその周りを何重にも円を描いているほどの強調ぶりだ。思わずため息が零れる。     
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