一章

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「エルドランド、か」  懐かしい響きだ。  本編クリア後に特別な(そして七面倒くさい)手順を踏まなければ行くことができない島である。しかしネットで事前にその内容を知っていた僕には労力に見合うだけの価値があるとは思えず、現在も未踏のままだ。大多数のプレイヤーもそうだったらしい。  しかしそこは変わり者の美玉先輩である。あの人は一時期、暇さえあればやっていた。というより部活動の時間のほとんどをゲームで浪費していた。あまつさえ、一人では倒せないボスが来たとなると部員を招集して加勢させるほどだ。それも部長命令で。  出し物の準備をしなければならない文化祭の前日でも彼女はゲームを優先する始末。身勝手が過ぎる先輩だった。  だから僕はあの時―― 「……ん?」  苦々しい記憶が浮かび上がろうとした直後、それに気づいた。  ケースの中身。  説明書は傷まずに綺麗なままだったが(というより、彼女の性格からしてそんなものは読まないだろうが)、反対側に収められているディスクに違和感を覚えた。よく見ると『クロノファンタジー』ではなく、『エターナルエンドレス』のディスク1と書かれている。  端的にいえば、入っているソフトが違うのだ。     
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