二章

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二章

 屋根つきの歩道橋を登っていると、潮の香りが強くなってきた。  ガラス板のない単に四角くくり抜かれただけの窓からは見えないが、僕の住む町は海に面している。夏場は高校が近いこともあり、学生らでいつも賑わっているのが地元のテレビで毎年のように報じられていた。  僕が最後に海に行ったのは、半年前。 『あの日』以来、行く気にもなれなかった。  階段を登る足どりが重くなったのは、運動不足がたたっているだけではないだろう。歩道橋の階段は意外と長い。  ふと見上げると、曲がり角の隅にあるミラーが視界に入る。事故防止や犯罪防止を兼ねたその丸い ミラーは吹きさらしのため汚れてはいたが、曲がった先に誰かの姿が映っているのがたしかに見える。長い髪からして女性のようだった。  まさかーー。  とある予感が頭をよぎった。  いつもあの場所から外を眺める人物に、心辺りがあったからだ。     
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