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言いかけた言葉をクヨウは、そっと指で塞ぐ。
「言うな、レンカ。言えば俺は、お前を闇に攫ってしまうだろう。でも、お前を連れて行けば必ず後悔すると解っているんだよ」
「私は後悔などしない!」
「それでも……」
クヨウはレンカの手を取り、サクラの大木の下へと連れて行った。
「見ろよ、レンカ。冬だというのに、この蕾は開きそうだ。狂い咲きとも徒花とも言うが、実を結ぶ事は出来ずとも、寒空の下で健気に咲く桜は儚く美しい。そして、枯れているように見えながらも春を待ち、逞しく冬を耐えぬく力強さを思わせる。お前も、この桜のように強く逞しく、生きて欲しいのだ」
「クヨウ……一人では強く生きられない。お前がいなくては、心が折れてしまうだろう」
「心配するな。俺は、いつでもレンカの側にいる。お前が務めで危険な目にあえば、影から加勢してやろう。寂しく眠れない夜があれば、庭の影で一晩中見守ろう。そして勤めが解かれる十八歳の夜。再び姿を現し、お前に斬ってもらおう。最後はお前の手で、終わらせてほしいからな」
「いやっ……いやだっ!」
激しく頭を振るレンカを優しく抱きしめてからクヨウは、突き放すように肩を押した。
「クヨウ……!」
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