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【2】
明け方近くに館に戻ったレンカは、熱い湯に浸かってようやく安堵の息を吐いた。
十四歳の時に当主である父を失い、十八歳で婿を取り正式に家督を継ぐまで仮初めの当主を勤めなくてはならないが、課せられた月に一度の任務が辛い。
天下平定の大戦が収束し、世に平和が訪れて久しい。
大戦時代、功を焦ったレンカの一族に、霊山の人為らざる者と契約し強大な力を持って戦を制しようとした者がいた。しかし、その企みは後に天下を平定した一族の知る所となり、未然に阻止されたのだった。
ところが首謀者である本家当主の首を刎ねた後も邪悪なる契約は生き続け、霊山頭頂の『地獄釜』と呼ばれる裂け目から幽鬼が現れ里の人間を喰らうようになった。噂でしか聞いた事は無いが、幽鬼に噛まれた人間もまた鬼となり、人を襲うようになるという。
そのため通例であれば御家断絶皆殺しとなるところ、一体なりとも幽鬼を里に下ろさない事を条件にレンカの一族は許されたのである。
任を果たすため幼いときから剣技を磨いてきたが、いくら鍛練を積もうと自分がムゲンやクヨウのように強くなれない事は身に浸みて解っていた。
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