終章

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「この本、今めっちゃ人気やねん。話題やからねぇ。なんでも、ノンフィクションらしいで」 「ええ、知ってます。読むのが今から楽しみです」  小毬は丁寧に頭を下げると、紙袋に包んでもらった本を小脇に抱えて店を出た。はぁ、と吐き出す息が白い。 (もう、冬なんだよね)  この身体になってから、あまり暑さや寒さを感じなくなった。おかげで多くの衣類を買わなくて済むが、あまりに薄着で冬に歩いていると不審な目で見られるだろう。なので、季節には当時より遥かに敏感になっていた。いや。樹塚町で暮らしているときと比べ、「生きている」と実感しているからだろうか。  冬の寒さも、夏の暑さも、何もかもが新鮮で心地よい。  小毬は帰ろうと踵を返したとき、ふと、古めかしい暖簾がかかった食料店が見えた。せっかく町へ降りてきたのだから、少し寄り道してもよいだろう。  小毬は食料店で購入した金平糖の小袋を手の中で弄びながら、山を登っていく。  通常のヒトとは違う小毬にとって、町から奥へ、奥から自宅の小屋へ行くのは、大した距離ではない。それでも普通のヒトにして見れば健康体の者であっても一苦労する距離なので、越してきてから今に至るまで小屋を訪ねてきた者はいなかった。 「あ、ついたー」  ひとりで呟く。     
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