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パンと牛乳を取りだして、青年に渡す。青年は遠慮がちに受け取ると、「ありがとう」と礼を言ってパンの封をひらいた。
「まだ学生だろう。金は大丈夫なのか」
「平気」
「無理はしなくていい。私は、何も食べなくても死なない」
青年はそう言いながらも、パンにかぶりついた。
その言葉の根拠はどこからくるのか問い詰めたい衝動に駆られたが、ただの強がりだと思うことにした。
「食べたら怪我を見るから、服を脱いで。ガーゼを取り変えるから」
「ガーゼも高価だろう」
「平気だってば。ひと箱に結構入ってるし」
青年の怪我は、血の量のわりに小さかった。小さいというよりも、まるで撃たれたかのような、深くえぐれた痕がある。やはり、山道を歩いているときに獣と間違えて撃たれたのだろうが、その辺りの事情は詳しく聞いていない。なぜ樹塚町へ来たのか、なぜ肌が透けているのか、なぜ怪我を負ったのか、なんという名前なのか。青年に関する情報の一切を、小毬は問わなかった。青年も自分から話すことはせずに、小毬のことも聞いてこない。
人付き合いが得意ではない小毬からすると、お互い最低限のことしか関与しないこの関係は、心地がよかった。
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